どうさ吹図屏風」の色紙下絵に近似する。木版雲母刷料紙は「謡本百番本」の表紙と裏表紙に使用されており,題箋と同時期に制作されたのであれば,「謡本大原御幸」や「後藤本」と同様に貴重な初期の作例となる。「謡本百番本」という名称が示すように,「謡本百番本」は百帖が確認され,その三十八帖が東京芸術大学附属図書館に所蔵されている。平成六年十二月五日からの三日間,東京芸術大学附属図書館の御理解によって,これらの謡本を調査する機会を得た。ここに,その調査結果を報告し,木版雲母刷料紙について検討する。二.現状報告東京芸術大学附属図書館に保管される「謡本百番本」三十八帖は,中を三段に仕切った桐箱に納められ,落蓋の蓋表には,「謡本光悦外題井図按」と墨書されている。おそらく,この墨書は旧蔵者である神坂雪佳氏によるものであろう。綴帖装に装丁された半紙本で,表紙と裏表紙に用いられる木版雲母刷料紙の寸法は約24.0 X 18. 2cmである。図様の連続する一紙を半分に切って,表紙と裏表紙に分けているため,表紙と裏表紙を合わせた寸法は,約25.0 X 36. 0cmの「後藤本」に近い。ちなみに,「謡本大原御幸」の寸法は,約23.7 x 34. 6cmとやや小さい。本文を書写した料紙は,二,三枚を重ねて一束とし,通常,二束を糸で綴っている。糸には白色,青色,水色の三色があり,綴り穴は四穴である。表紙と裏表紙の木版雲母刷料紙は,本文と共に綴じるために,本文の料紙の束を若干包むようにし,また,わずかに内側に折り込んで,本文料紙を貼り付ける糊代にしている。つまり,表紙と裏表紙に使用された木版雲母刷料紙は,採寸した寸法より少し大きいことがわかる。なお,表紙の中央上部に貼られた題箋の寸法は約12.2X3.2cmである。百帖にも及ぶ謡本を数人が分担して書写することは不思議ではないが,本文を書写する筆跡には,少なくとも三種が認められる。本文の料紙においても,饗砂の引き具合に明らかな相違がある。筆跡と料紙との関係など,検討すべき問題も多いが,今は指摘するにとどめる。三十八帖の「謡本百番本」に使用された木版雲母刷料紙の図様を表1に示す。なお,作品番号は曲目を現代仮名使いにした場合の五十音順に付した。― 木版雲母刷料紙の図様--482-
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