鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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^V 縦250cm,横134.5cmの大きな複雑様三枚綾緯錦・中国製サミットである。幅43cmの円文意匠が,横に3模様,縦に5段に織り出されている。端正な連珠円文のなかに,1本の立樹を真中にして,上下2段に向きを変えて,有翼の馬に乗り,安息射法で襲いかかる雌獅子を射る武人を対に織り出している。ササン王の肖像画的図柄と見倣されたこともあったが,馬の臀部に漢字が見え,さらに模様の細部(例えば冠の装飾)にササン図像にそぐわないところが見出される。新技術による中国絹芸術の傑作であり,世界的水準の最高峰に位置づけられるものであろう。則天武后の在位(690-705)の終わりごろの製作であろうとする説がある。妥当なところであろう。同じ技法で,同じような規模の円文に,同じように対の模様(同様騎馬の狩猟文であることが多い)を配する趣向は,8世紀のソグド錦やビザンティン錦に共通して見出される。同様に日本製サミットも東大寺大仏開眼大法要会(A.D.752)を前にして製作された。武敏氏は大谷探検隊将来の「花樹対鹿」の銘を織り込んだ同様な錦断片(面衣)をも経錦と見倣す。その立場でこれをみると,経錦の織幅が両手を動かす範囲(50■35cm)であるはずのものが,幅250cmにもなる。対して長さは130cm余となるか,そのような織り方は不自然である。この錦の装飾形式は,大仕掛けで屏風綜統を得意とする空引機の特色をよく表現していて,ここに紋織技法の古典的完成があったとみている。図3法隆寺蔵四騎獅子狩文錦・中国緯錦•8世紀-40 -

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