る雁の姿は杜会秩序の模範でした。雁の群が雲の中を飛ぶのは,すなわち,朝廷に仕える士人たちを表しており,それは賞賛すべき統一感を示していますが,いったん砂地に降りると,その理想的な礼儀秩序は失われてしまいます雲裡相評疾雲裡相呼ぶこと疾(はや)< 沙邊自宿稀沙辺に自ら宿るは稀(まばら)なり繋書元浪語書を繋ぐも元(もと)より浪語(ろうご)愁寂故山薇愁寂たり故山(首陽山)の薇(び)終わりの対句には暗鬱な心情が窺えます。杜甫の詩的な発想にもかかわらず,雁は現実には書信は持って来ません。家族からも朝廷からも何も届くことは期待していないのです。忘れられ見捨てられ,杜甫は,伯夷・叔斉兄弟が周の禄を食んでまで不忠な姿で生き存えるよりもと餓死してしまったおぞましい思いに立ち返っています。第二首のく落羽>で,杜甫は憂鬱な思いから一時開放されます。眠気を催すような反復である始めの六句のあとに渡る雁の繰返す動きが続きます。雁が美しい秩序をもって遥か遠方へ飛ぶ動きの魅惑的な静寂さは,第七句の突然の変化に遮られます欲雪違胡地雪降らんと欲して胡地と違(まが)い先花別楚雲花に先んじて楚雲と別る郁過清渭影徘(かえ)って過ぐ清渭(せいい)の影高起洞庭群洞庭に高く起(た)つ群塞北春陰暮塞北に春陰は暮れ江南日色薫江南に日色は薫る傷弓流落羽弓に傷つきたる流落の羽行断不堪聞行くを断たれ聞くに堪えず第七句の表現は事件が起こった驚きを与えます。驚いた一羽の雁が矢に当たったのです。杜甫はここで凋落の意味で「落」の字を用いています。雁は自分から落ちたのではなく,体を尾羽をつけた矢で射られて空から落ちたのです。断絶は詩人も耐えることができない雁の悲しい叫びによって生じました。これらの詩的連想は,洛陽で宋迪が直面した問題を直接に語っています。彼は自分からすすんで隠退した(雲間から落ちた)のではなく,冤罪を受けた忠臣でした。彼は傷ついて追放されたのです。-522-
元のページ ../index.html#534