鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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⑤ 宗教改革時代のドイツ木版画研究15世紀の初期木版画は,ほぼ太さの等しい線をもって描写対象を輪郭線のみによっ2.同時期に生じた木彫の様式変化1. 15世紀から16世紀にかけての木版画様式の変化デュッセルドルフ大学美術史研究所教授招致研究者:ハンス・ケルナー(Dr.Hans Korner) 報告者:東京ドイツ文化センター文化部長マルクス・ヴェルンハート期間:1995年1月14日〜1月21B 招致者ハンス・ケルナー教授は初期木版画研究の第一人者として知られ,とりわけその著書Derfrliheste deutsche Einblattholzschinittは,この分野の研究に欠かせぬ論文となっている。東京ドイツ文化センターは,同氏のこうした経歴を踏まえ,同センターの協力により国立西洋美術館で開催された展覧会「宗教改革時代の木版画」展カタログ序文執筆とその記念講演会での講演を依頼した。「匙彫りの技術」と題されたこの序文と講演はほぼ同じ内容であったが,その目的とするところは,中世末期からルネサンス期にかけての美術一般と木版画の様式変遷を観察し,その根底にある美術概念の変化を指摘することであった。以下にこの序文/講演の概要を記す。て表わし,ハッチングによってモデリングを施すことや画面の空間描写を行うことは稀であった。またこれらの版画には通常彩色が施されていたが,その色彩は輪郭線に囲まれた平面を塗りつぶすように用いられ,やはりモデリングや空間描写を目的とするものではなかった。これに対してデューラーの作品に典型的に見られる16世紀の木版画では,彩色が排除され,精緻な線の組織的な描写によって,三次元的な対象を組み込む現実的な空間として画面が構成されている。この版画様式は,一時に見ることの可能な画面を現実の空間として構成するという新たな美術概念と対応しているが,そこでは同時に,自律的な線描の美術としての木版画の性格があらわになっている。それぞれの美術に固有の技術的特性を明らかに示すという新たな美術の特性は,木-534-

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