(2) 海外派遣報告者:四天王寺国際仏教大学非常勤講師由比邦子今回の派遣は,インドネシア・中部ジャワの宗教建造物(チャンディ)壁面のレリーフに見られる奏楽図や舞踊図を調査し,各場面の図像構成や楽器個別に関する情報を記録して,画像データベース作成のための基礎資料を完成させることを目的とした。したがって,現地での主たる作業は,各宗教建造物レリーフの該当箇所の写真撮影(スライド,ネガ,モノクロによる)とスケッチ,および文字による記録である。また,現存するチャンディのレリーフに加えて,博物館(ジャカルタの国立中央博物館,ジョクジャカルタのソノブドヨ博物館,スラカルタのラジャプスタカ博物館)に収蔵されている諸遺跡からの出土品としてのレリーフも調査の対象とした。ボロブドゥールやプランバナン・シワ堂の壁面レリーフには,楽器及び奏楽・舞踊場面が数多く現われるが,これらに関しては,過去数回にわたって予備調査を行ない,写真撮影も行なってきている。したがって,今回の派遣によって,これまでの写真撮影の不備を補うことができた。インドネシアでは日光が強いために,特に石造物に関しては,日光の当たる部分と当たらない部分とのコントラストが激しくなる。そのために,レリーフの写真撮影は,季節や時間を変えて何度も行なう必要がある。調査が数年がかりにならざるを得ない所以である。また,ボロブドゥールやプランバナン以外の諸チャンディについては,過去に予備調査を行なったものも含めて,詳細に調査することができた。以前に予備調査を行なったチャンディについても,新たに楽器の発見があり,炎天下での調査作業においては,往々にして重要な箇所を見落とす恐れがあることを反省させられた。今回の派遣において,特に重点的に調査したのは,プランバナン・シワ堂とセウ主堂それぞれの外壁を一巡する一連の奏楽・舞踊図レリーフである。セウは1993年に復元が完了したチャンディで,現在はプランバナン観光公園の一角に位置する。セウの壁面レリーフは復元されたとは言え,欠陥箇所が多く,全貌が明らかでないのが残念であるが,プランバナン・シワ堂の一連の奏楽・舞踊図レリーフとの共通点を多く持つ。プランバナン,セウはいずれも,ほとんど同時代に隣接して建立されたヒンドゥ① 中部ジャワの宗教建造物の壁面レリーフに見られる楽器の図像学的研究-538-
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