性のなかに非常に洗練された色彩と申し分ない構図の配置をみせる<フランスと東洋>という優美な寓意画である。黒い背景からくっきりと浮き上がるように,眼を爛々と輝かせた龍が一匹,まばゆい帯状の光を吐き出し,そのなかにおぼろげに描かれたなめらかな肌のひとりの裸婦が,左手に三色旗をはためかせ,もう片方の手からは薔薇の花びらをまき散らしている。<恋に狂った清玄>は,おそらく余興に語られるような日本の素朴な伝説にもとづくものだろう。恋に夢中の不幸な清玄は,たしかに興味深く描かれているが,一方,清玄から理性を奪った恋人である女性のほうは,あまり巧みとはいえず,優美さにも欠けている。<冬と春,大名の狩り>では,口から泡を吹く素晴らしい黒馬が後足で立つ動きが,きわめて気のきいた効果を生み,よく構成された作品に仕上がっているが,技法はところどころかなりうるおいに欠け,荒々しいものとなっている。もう1点,非常によく描かれた海景である<上総の九十九里浜,ある魂の旅>を紹介しよう。これはロマンティックな空想の絵画で,優美な若い娘が一羽の…寛大な鷲の翼に乗り,薔薇の花びらを播き散らしながら,夜の空を舞っている。<初めての接吻>と朝のく茶屋>の内部の場面は,光の扱い方がおもしろい作品である。しかしながら,最も心につよく訴える魅力を持つ作品は,異論の余地なくく烏たちの儀式>であろう。輝く月の銀色の光のもと,雲のない藍色の空を背景に力強くきわ立つ満開の梅の樹のねじれた枝に三羽の烏がとまっている……これですべてでありながら,このうえない魅力に満ちた作品である。最後に,山本氏の名声を高めた奇抜な早業である絹地に描かれた水彩画とカケモノから,数点を紹介しよう。青い絹地に描かれた<二羽の兎>,慈悲の女神である水墨の<観音>,<酔って見る夢>,<虎の目覚め>ではこの日本人は第一級の動物画家でもある。そしてく粗忽な哲学者>でしめくくろう。さて,終わりに,挿絵画家としての山本氏と,ジュディット・ゴーティエ夫人の詩集である『蜻蛉集』のために彼が描きあげたばかりの美しい挿絵にも触れておいたほうかよいだろうか?しかし残念ながら,これについては私の友人であるエミール・グードーが書くことになっている。私は彼に,ゴーティエ夫人の本の中の,日本語から直接翻訳された以下の詩に添えられている素晴らしいデッサンに注意を促すことをのみ,許してもらいたく思う。水がその色を揺らす枝を手折るために,-541-
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