③ ボストン美術館所蔵作品の調査研究期報告者:京都国立博物館主任研究官山本英男間:平成6年10月23日〜11月6日このたびの調査の主たる対象はボストン美術館に所蔵される室町期の狩野派作品であったが,ほかに桃山時代の狩野派や等伯や友松ら桃山漢画諸派の作品もその中に加えることになった。実見しえた作品数はおよそ百五十件。紙数の関係もあり,ここでは室町期の狩野派作品に絞り,その概要を報告したい。まず,狩野派の祖・正信の手になるとされる作品として「三聖図」「荊和環図」があったが,いずれも正信筆とはみなし難く,桃山期頃の模本と判断された。ただし双方とも細部表現は細やかで,失われた原画を想起させるに十分な出来映えを示す点,その資料的価値は高いと思われる。また,正信箪の伝承はもたないものの,図上に五山文筆僧・横川景三の賛を有する「布袋唐子図」は正信の「崖下布袋図」と酷似した手法を取る作品として興味深い。横川の賛は彼の詩文集に収載されており,それによると「布袋賛慈雲院主席上」とあって,慈雲院主すなわち細川成之に招かれた席で着賛したことが知られる。成之といえば当時,画の名手としてうたわれた人物であるから,本図の筆者が成之であった可能性についても検討される必要があろう。因みに横川の着賛は詩文の配列順序から,およそ文明十一年(-四七九)頃になされたことがわかる。次に,元信筆と伝える作品で目を引いたのは,「鞘靭人狩猟図」(二幅)である。この作品はもと大徳寺の興臨院の襖絵であったと伝えられ,これと一連のものが現在静嘉堂文庫に屏風に改装されて遺されている。筆法は岩跛がややきぜわしく量感に乏しいきらいはあるものの,諸人物の動態はきわめて巧みに描出されている。元信正筆とはみなしえないにしても,周辺の有力画家の手になることは動かないように思う。「白衣観音図」「飯尾宗祇像」の二点は既に展覧会等でおなじみの作品だが,あらためてその出来の見事さに感心させられた。前者の岩は総じて量感たっぷりにあらわされており,とくに大仙院の「四季花鳥図」あたりとの親近感がつよくうかがわれる点,元信真筆の可能性は高いといえる。後者では画面の切り詰めや図上の賛を消した痕跡がある点ば惜しまれるが,宗祇の面貌や馬の表現などは他に遺存する元信画のそれと共通した特徴を有するものである。ただし,画面左下方に施された画家のものと思し-544-
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