最後に,弟子家の作品について触れておこう。まず長吉の手になる「栗鼠図」は,松田筆と伝える作品などをもとに描かれたとみられるが,細緻な表現を避け,かなり簡潔かつデフォルメして対象をあらわしている点にその特色がうかがわれる。ともすれば硬質な筆線処理に傾きがちな長吉画の中では珍しく,柔和な筆遣いが印象的である。小田原狩野の一員と目される官南の「鍾旭図」は,地塗りを施した画面に力強い筆遣いをもって虎を従えた鍾旭の姿を描いたもの。鍾旭の顔には淡い隈取りもなされており,やはり他の官南作品と同様,どこか日本離れした,不気味な印象を観る者に与えている。玄也の筆になる「平沙落雁図」は近年購入されたほとんど未紹介の作品だが,やはり同館が所蔵する玄也の「遠寺晩鐘図」「江天暮雪図」と一連のものであったとみられる。画面寸法からすると,もとは画帖仕立てであった可能性が高いが,いずれにせよ,没骨手法を駆使して湿潤な大気をあらわすことに成功している。以上,室町期の狩野派作品のうちとりわけ印象深かったものについてのみごく簡単に述べ来たったが,冒頭でも触れたようにこれらの他にもボストン美術館には注目すべき狩野派作品がまだまだ数多く所蔵されている。そのことを知り得ただけでも今回の調査は有意義であったが,今後はその結果をより詳細に整理・分析していくとともに,わが国に遺る狩野派作品の調査も進めていきたいと考えている。ご助成いただいたことに対し,厚くお礼申し上げたい。-546-
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