鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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辻期④ ボストン美術館所蔵の日本絵画調査10月23日夜ボストン到着,翌24日午前より,調査開始。メンバーは下記の通り。報告者:国際H本文化研究センター教授間:平成6年10月23日〜11月6日辻惟雄山本英男アン・ニシムラ・モースアン・ローズ・キタガワその他,日本人留学生数名が手伝いとして加わった。ボストン美術館側の協力は非常に積極的であり,とりわけモース,キタガワ両女史が,大量の屏風や掛軸を出し入れする奮闘ぶりには感銘を与えられた。若い山本氏の頑張りに引っ張られて,私も目いっぱい仕事をした。10月24日から11月4日まで,土・日を除いて連日,午前,午後を通じ調査を継続,我々に割り当てられた分野の調査を短期間にほぼ終えることができた。我々の精勤ぶりには両女史も異例なことと驚いていた。結果はA4版の調査カード113枚を埋める詳細な調書と大量の撮影フィルムとなって残された。未紹介の名品や,学術的に注目される作品がそのなかに多数含まれており,目録として公刊の暁には大きな反響をよびおこすだろう。一例を挙げれば,長谷川等伯の猿狼図屏風は,大正12年の国華394号に掲載されて以後,所在不明となっていたものだが,今回の調査でボストン美術館が購入していることが判明した。この作品は,紙継ぎの不規則な点や描写の方法で即興的な点からみて,恐らく下絵として描かれたものと推定され,等伯の画風の奔放な側面を端的に示す例として注目に値する。調査の結果は総目録のかたちで出版することになっているが,かねてから予定されていた出版杜である講談社が,最近になって,深刻な出版不況を理由に刊行の困難さを訴えるに至った。私は,帰国後の11月25日,講談社の畑野専務,丸本局長,小林忠学習院大教授とともに,この問題につき協議し,その結果,総目録と観賞用の図録とを別個に編集することによって問題を解決する案が出された。丸本氏はこれを1月下旬の会議にかけて全社的同意を得るという目算をたてているが,これは実現性が高いと思われる。惟雄-547-

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