鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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⑥ ヴィクトール・マリアン・ランゲン夫妻収蔵作品の調査を主体とするヨーロッパに所期在する日本絵画に関する調査研究報告者:慶應義塾大学文学部教授河合正朝間:平成7年3月10日〜22日欧米の美術館や個人のコレクターが収蔵する日本美術作品については,現在のところ米国におけるそれのほうが,情報を得やすくまた調査研究の機会にも恵まれているといえる。一方,ヨーロッパでは,アメリカに比べて,日本美術史を専門とする研究者の数も決して多いとは云えず,未だ必ずしも十分な調査が行われてはいないようである。こうした状況のなかで,奈良国立博物館の西ヨーロッパ,国際日本文化研究センターの東ヨーロッパの美術館における蔵品調査など,わが国の国立研究機関が当該美術館の協力を得て組織的にこれを実施するなど,近年,ヨーロッパ所在の日本美術作品に対する関心の高まりとその調査研究の必要性が認められるところとなった。また,これに先立ち,東京大学の河野元昭氏と京都大学の佐々木丞平氏によりドイツ・リンデン美術館に保管されているベルツコレクションの蔵品調査が行なわれ,全作品の目録が出版(講談社刊)されており,本研究助成金の申請者も編集委員の一人として参加した『秘蔵日本美術大観』12巻(講談社刊)も大英博物館,ベルリン東洋美術館,ケルン東洋美術館,パリ・ギメ美術館,ライデン国立民族博物館などヨーロッパの主要美術館に所蔵される日本美術を絵画を中心に集成を試みた図録の出版として,ヨーロッパ所在の日本美術作品を知る手掛かりを与えるものとなっている。この度,鹿島美術財団に研究の援助を申請し,ヨーロッパにおける現地調査を計画したのは,上記の美術館の蔵品中の幾つかの作品の確認調査と未調査作品の調査である。ことに今回重点的に調査を行なったのは,未だ研究者による本格的調査が行なわれたことのなかった,ドイツ人・ヴィクトール・ランゲン,マリアン・ランゲン夫妻のコレクション中の日本絵画を調査することであった。ランゲン氏は,ドイツ・ケルン市に居住しておられるが,スイス南部の保養地として知られるアスコーナ市に展示と収蔵品の保管を目的とする施設を所有している。したがって,その調査は,3月11日から14日までの4日間,コロンビア大学美術史考古学科の村瀬賓恵子教授との共同研究の形で終日,アスコーナ市にある同氏の収蔵施設で行なわれた。ランゲン氏の日本美術コレクションには,絵画174点のほか,土偶,埴輪,縄文弥生-550-

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