については,日本においては未だ知られることが少いこともあって,この分野の第一人者であるディ・ヴィータ教授の招請が強く要望されたからです。またもう一点としては,東京大学の青柳正規教授や筑波大学の中山典夫教授らを中心に,日本に於いても近年著しい進展をみせているこの分野の研究に,ディ・ヴィータ教授自らが指揮した発掘調査や文化財修復などに関わったりした長年の経験・体験を通じての豊富な知識や貴重な資料に基づく教授の独自な研究,そして現在,全ギリシア世界の考古学研究とより優れた若手研究者を育成するためのアテネにあるイタリア国立の最高の文化機関の一つである考古学研究所所長としても,また自らその中心に身をおくヨーロッパにおける学界の最新情報の教示と提供等々,日本の古代美術史研究にとっても,教授の来日は大いに有益であったからです。他方,教授自身にとっても,先回の来日時に知り合った古代美術研究者との旧交をあたため,その後の日本の学界における研究状況や国内外の発掘活動から文化財の修復・保存に関しての専門的な意見の交換まで,そして今後の研究における協力関係を約束するなど,特に古代西洋美術史家および考古学者間の交流に得ることが多かったと語っていました。また日本の専門分野以外の方々との触れ合いは,東京のイタリア文化会館と京都芸術短期大学において行われた教授の講演会においてもみられました。講演会のタイトルは先述の『ローマの属州,レプティス・マグナ』で,日本の一般の方々にはあまり馴染みのないアフリカの古代都市に関する講演だったにもかかわらず,その大著『ローマの属州アフリカ』や,シチリアから東地中海に至る様々な地域についての多数の研究書を著わしている専門研究者として,この現在のリビアの首都であるトリポリという名の因となった三つの古代都市の一つであるレプティス・マグナの発展状況を,リビア政府もその功績を公式に讃えた優れた業績の一つである発掘調査によって明るみに出た遺跡やその図面によって跡づけ,さらに交易による影響,ローマとのつながりなど,様々な例証をあげて,その表現様式に顕著に残る彫刻群や建造物など教授自らが撮ったスライドなどもふんだんに使った説明によって“ローマ帝国の属州”であった重要なこの都市の姿を浮き彫りにして,ローマ帝国の枠内での位置づけと共に,時代の変化と発展をも辿れるように,一般の来聴者にも古代美術史および建築史としても十分関心を抱かせてくれる明快な言葉で話を進めていきました。この毎秋イタリア文化会館で開催される<古代イタリア歴史・考古学セミナー>は今回で5年目を迎え,その来聴者も,専門研究者や大学および大学院生と同じ,あるいはそれ以上の新-568-
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