きぬず(2) 海外派遣① ボストン美術館東洋部所蔵の能面,狂言面の保存管理,在庫数損傷の調査,記録訂正,現在の状態での記録写真撮影,修復の工程説明と実施,その他各種討議報告者:淡交舎能面彫刻家橋岡一路間:平成5年4月11日〜4月25日田辺三郎助氏の御推薦,鹿島美術財団の御支援を得て,アメリカ合衆国マサチュウセッツ州ボストン市に在る,ボストン美術館東洋部に収蔵されている“能面”の調査に田辺氏と同行,平成5年4月llHより25日迄2週間の日程で調査を行った。今回の調査目的は,能面の数量,分類,損傷の状態,修復の是非,収蔵保管の管理状態それと,これは田辺氏が帰国された上での相談となるが,修復費用の算出等々か主たる目的であった。4月12日,呉東洋部長,モース日本担当,ビールリサーチディレクター,マーガレット氏,北川氏と初めての会議を行なう。アーサー・ビール氏は現在の能面の状態を憂慮され,能面は,どのような扱い方をすることが一番良いことか,保存と管理に就いて意見を求められた。私は“能面”は美術品である前に生きた芸術品であることを説明,“能面”の能に於ける意義と役割,そして演者の汗による演能後の手置きが大切な重要条件である事について話す。“能面”が世界に類例を見ない生きた仮面であること,能の演者がその曲の主人公に成りきる為,その能面に全身全霊,魂を打ち込むという物凄いまでの精神的表現を託し,託された能面が,千変万化の緊迫感を発揮し,能に使用すればする程,不思議にも高度な生きた仮面となること,それは,能面が演者の魂を戴くことによる積重ね,そして面の出し入れに伴なう絹磨れが,生き生きとした艶を生み,その手置きと相侯って,能面の一番良い管理は,“能に使用すること”であると説明,当美術館にあっては残念乍ら,所詮無理で,生かす方法は,時々出し入れをして軽く絹布で撫でてやり,2 〜 3週間の単位で展示などして,一般の空気に触れることがせめてもの良い方法であることを申し上げた。修復について何故日本で修復せず,当地で修復をしなければならないかを問う。モース氏はよほど日本は湿度の多い国と思い込まれているらしく,美術館の定温,期-570-
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