鹿島美術研究 年報第12号別冊(1995)
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20ミリの厚さの棚板の上に裸のまま20面ずつ整然と並べられてあった。3.彩色損傷。甚しきものから大中小と細分化。5.良好。修復の必要なし。2.木部損傷。4.やや良好。定湿度には耐えられず,又々剥離してしまうのではないかと答えられる。修復に要する時間の掛かることも説明,一面の制作日数より修復,復元には時間の掛かること,修復後,それが自然の落着きを取り戻すのには又,何年とかかるだろうとお話ししたが,修復は単に,貼り付ければ出来るものと安易に考えている様に思え,カビ,シミの洗浄に続いて,彩色の浮き,剥離の押さえ,貼り付けが固定されて乾燥させるのに時間を掛けなければならないこと,落着いた処で,創作期の地色から上塗りとその彩色を補正した上に,現在迄の古色(古び)を彩色する工程を説明致しました。次いで一階に在る収蔵庫を見学した。室内は,温度15度〜20度,湿度は45%■50%が維持されており,能面は,アクリル硝子入りの外開き扉の付いた戸棚に収蔵され,私は仰天した。面袋も無く,況んや面箱にも入っていない。モース氏の申す処によれば,日本担当になった7年前は勿論,最初から何故か面袋は一面も無く,この美術館の茶道具類の仕覆も一切無いとのことであった。能面が痛々しく,ここに居ることさえも耐え難い思いだった。午後より能面の調査をする。ビール氏の依頼により,収蔵面を5段階に分類した。1.全体に危険。美術学者と能にたずさわる能面の制作者としての立場の相違は,隈々,日本でも問題になるが,600年の歴史を有しても,能に使用できるものでなければ“能面”として価値が無く,美術品としての古面にすぎない。学者は使用できないようなものでも,古面として充分価値を認めているが,芸術性を生む本来の“能面”の在り方について,ボストン美術館は,どちらを選択するかを問う。ビール氏もモース氏も芸術品としての“能面”に認識をもって下さる。そして出来得れば,収蔵面全部を蘇らせる事を希望される。-571-

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