おもたとう4月13日,昨夜は収蔵面を考えると眠れず痛々しさにレポートを書く。第一に能面が能面らしく保管されていないこと。冷蔵庫の中に裸のまま入れられて,陶磁器や金物と同一に扱われていること。日本画,軸物と同じ彩色であり,漆器よりはるかに弱いものであるという再認識の必要性。第二に直ちに住居である面甑笥か桐箱に入れて,蒲団(面袋),毛布(面当て)によって暖かく優しく包んでやって欲しい。一般の空気を遮断して余裕を保つことが,木彫や彩色の保護になる。日本で修復しても,裸で置かれれば,又,剥離の繰返しになるであろう。第三に能面の能に於ける重要性の再確認で,それには先ず,人物の懐いや心,思想を表現出来る生きた仮面にしなければならない事,前にも述べた,美術品である前に,生きた芸術品に蘇らせねばならないこと。能面を愛し大切にすることは,先ず能を知ることで,世界に誇る仮面として展示出来るようにしたい。第四に,ボストン美術館の能面はミイラに等しい。美術品として,ミイラとして,保管するか,感動を呼ぶ生きた芸術品として管理するか,美意識の改革をして欲しい。その為には浮きや剥離,そして老化は,小さい内に手当をし,進行を止めなければならない,と。面箱,面袋の検討をする。桐箱について面箱としての高級な木箱の必要性が理解出来ないらしく,蒔絵の文箱でも簡単にパラフィン紙で包み,ダンボールの畳紙に入れられている。漆器の最大の敵は湿気であるが,これがボストンでは全く心配無いのでこのように簡単に考えられていて,桐箱のような高級箱は必要に迫られないのであろう。面箱1万円,面袋(面当て共)1万円,一面に対して2万円,200面で400万円。面箱の代りに100面収納出来る桐蹴笥であれば2竿で200万円,どちらにしても400万円が必要となる。ビール氏は,彩色についてのニカワはチョウ鮫の骨で作られたものを使ってみて欲しいと申される。水溶性の接着剤についても科学的に分析してみたいと言われる。カビについては日本では水洗いを行なうが,揮発性のものも検討してもらう。エマルジョン系,合成樹脂41%に酢酸ビニール樹脂,水59%,商品名“ボンド’'は使用されていないという。何故なら,二次的補修の場合,剥がせないという。能面の場合,一旦修復した処が何年か経って浮くことがあっても,再度剥がす必要が無いことを主張す-572-
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