挿絵付きユニットを漏れなく抽出し,段落標題•本文(各段落冒頭の章句)・挿絵主題§ 2 『歴史物語聖書」の挿絵配置システムの特色12世紀に入ると,西ヨーロッパ各地の修道院付属スクリプトリウムでは,旧約•新iee)を伴う,レクターン・バイブルと呼ばれる朗読台用の大型版聖書の制作が最盛期の対照表を作成した。この対照表は,『歴史物語聖書』を構成する各書に含まれる段落標題とそれに続く段落の主題を明らかにすると同時に,それぞれの写本作品に含まれる挿絵サイクルの主題系列,任意の段落に与えられた挿絵主題の多様性や特定の主題の挿絵化の頻度など,『歴史物語聖書」の挿絵サイクルに関する基礎的な情報を整理して提示するものである。『歴史物語聖書』写本特有の,段落標題形式による挿絵の配置システムの特色は,これ以外の聖書写本との比較分析を通じて,より的確に理解することができよう。約聖書各書の冒頭に複数の史伝的場面からなる扉絵や物語イニシアル(initialehistor-を迎える(注4)。例えば1160■1175年頃イングランドのウィンチェスター大聖堂のために制作された「ウィンチェスター聖書』の列王記冒頭に由来する一葉では,レクト面の左コラムの上方約三分の二のスペースを占める段落標題リストに続き,残りの紙面とヴェルソ面の全面にわたって,列王記I• II(=サムエル書上下)の主要エピソードが展開する。いずれの場面もよく知られた主題を扱うため漠然とした指摘とならぎるを得ないが,ここに描かれた一連の主題は挿絵サイクルに先立ち掲げられた段落標題リストの内容にある程度呼応して選択されたとも考えられる。いずれにせよ,これらのウルガータ版レクターン・バイブルにおいては,扉絵として纏められた一連の挿絵は,段落標題リストとともに,各書の冒頭に提示されることにより,以下に続く本文の内容を簡潔に要約する機能を担っていると言えよう。各場面の主題が直接指示する章句の位置に従って本文の流れの中に分散されることのない挿絵サイクルは,連続する説話の表現には,より効果的な形式と言える。各書の冒頭に豪華な扉絵を伴う大型版聖書が主として修道院内部での使用に供されていたのに対し,13世紀に入ると,パリなどの都市では,都市に活動の拠点を置き世俗の写字生や挿絵・装飾画家の仕事を統括する書籍商(libraire)が,大学公認ヴァージョンのテキストを備えた携帯版小型聖書を供給するようになる(注5)。いわば規格品として量産されたこれらの携帯版聖書においては,小型の挿絵や物語イニシアルを-82-
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