picture"を随時挿入するシステムは,先に言及した黙示録や詩篇,福音書などを除外§ 3 段落標題形式による挿絵配置システムの展開前章の考察により,『歴史物語聖書』に広く認められる段落標題形式の挿絵配置システムは,写本を構成する諸要素の機能やレイアウトなどの点において,12世紀以降西欧で制作されたラテン語あるいは俗語による聖書に一般的であった扉絵形式とは,本質的に異なる特徴を備えていることが確認された。『歴史物語聖書』特有の段落標題形式に基づく挿絵サイクルの形成に重要な役割を果たしているのは,繰り返すまでもなく,『スコラ史』に由来する段落標題である。しかしながら,段落標題の有無とは別に,聖書を構成する各書の冒頭以外の場所にも挿絵を挿入するシステム自体は,『歴史物語聖書』以外の聖書テキストにも認められる。その最も典型的な例は,比較的早い時期から,他の聖書各書から独立した写本として制作され,充実した挿絵サイクルの伝統を持つ,黙示録や詩篇,福音書などであろう。例えば詩篇の場合,ミサや聖務日課などの典礼において読誦する範囲を明示する必要から,全150篇あるいは典礼において最初に読誦される特定の篇の冒頭に,しばしば一定の主題を持つ物語イニシアルや挿絵を置くシステムが確立している。黙示録や詩篇の伝統的な挿絵サイクルは,『十三世紀フランス語聖書』や『歴史物語聖書』にこれらのテキストが組み込まれる際にも,そのまま導入される場合が少なくない。コラム(柱)状にレイアウトされた本文の流れを中断し,対応する章句の直近に挿絵を随時挿入するシステムは,周知のように,かつてヴァイツマンか,初期キリスト教およびビザンティン写本挿絵における巻物形式から冊子形式への移行を論じた研究において,“columnpicture"と命名し,詳細に考察したものである(注6)。ラテン語およびギリシャ語聖書に対象を限定した場合,各書の冒頭以外の場所にも“columnすれば,筆者の気づいた限りでは,『コットン創世記』や『レオンの960年の聖書』など初期キリスト教時代のモデルに遡るとされる一部の作例,ビザンティン系の旧約八大書や列王記写本,あるいは14世紀中葉ナポリで制作された一連のラテン語聖書などに認められる。しかしながら,これらの作例は,現存する作品の点数から推測する限り,扉絵形式を採用する聖書写本に対し,少数派にとどまる。現存するラテン語聖書写本の大部分が,初期中世以来,扉絵形式を採用するのに対し,西欧において“columnpicture"あるいは段落標題形式を積極的に導入しているのは,13世紀以前の作例では,古英語による『ケドモン創世記』や『エルフリック旧-84-
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