注(1) これまでの筆者によるビザンティン・レクショナリー写本研究については,以下現在まで指摘されている21写本のうち,レクショナリーは8冊を占め,このスクリプトリウムは豪華なレクショナリーを得意としていたと言われている(注15)。8写本は世界各地に散在し,筆者は未だその全てを調査してはいないが,少なくとも我々のロンドン・レクショナリーの聖者暦は,パレオロギナ・グループのそれと著しい類似を示す訳ではない。大英図書館Cod.Add. 37006の写本本体は,アンドロニコスニ世の制作になるものではなく,十二世紀の既製のレクショナリーを再利用したもの,というのが現在の筆者の結論である。巻頭挿絵を含むFolio1がbifoliumでなく,単葉であることも,この結論の傍証となるであろう。千年を越すビザンティン帝国の歴史においても,肖像挿絵を含む皇帝寄進にかかる写本の数は多くはない(注16)。アンドロニコスニ世が注文した挿絵を持つ写本が,大英図書館という公共のコレクションから新たに発見されるということは,ビザンティン学の若さ,歴史の浅さを示すものであろう。我々は何か体系的な研究を志しても,基本的な史料が出揃っていない故に道を阻まれることが少なくない。その代わりに,時に新しい発見の喜びを味わうことができるのである。アンドロニコスニ世のレクショナリーの発見については,1996年8月,コペンハーゲンの第19回国際ビザンティン学会において報告がなされる予定である。参照。E凶ovoyp&向吻TOVX€lpoyp綽ovapt0. 587't'J'/ぐMov加ふov函OVの受難週挿絵における典礼的性格」『早稲田大学大学院文学研究科紀要』18化」『美學』172(1993), pp.12ff.; "Picturization of John 1 : 1-18 in Byzantine 蔵のビザンティン・レクショナリーについて」『ビブリア』103(1995.5), pp.198 mo'AylO'0poぐ(diss),Thessaloniki 1990 ;「ディオニシウ・レクショナリー(1991), pp.103ff. ;「ディオニシウ・レクショナリーの寄進者」『美術史研究』30(1992), pp. 51ff. ;「ビザンティン写本挿絵におけるヨハネ福音書冒頭部分の絵画Manuscript Illustration" AESTHETICS 6 (1994), pp. 59ff. ;「天理図書館所ff. ;「ビザンティン・レクショナリー写本研究の諸問題」『ビブリア』105(1996.5), -137-
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