『京童跡追』が刊行される他,京都に関して『京童』刊行以降に『京雀』『京羽二重』(それぞれ続編あり)『出来斎京土産』『京師順覧集』など多くの地誌,名所案内記が刊行されることとなる。これは『京童』が受入れられ,後続の本はその影響をうけたものであるといえよう。『京童』上に取上げられた名所社寺は,目録上八十七箇所,付(つけたり)として記された十二箇所を加えると実に九十九箇所を数える。挿絵は目録数と合致し(一項目ー図)八十七図(片丁が基本だが,見開き三点も含む)描かれている。画風は,同時期の仮名草子と同様の傾向を示すものの,絵師を特定しうる特筆する特徴はない。絵師については,『京童』中には絵師名の記載がなく,諸説みられるが,ここでは,古市氏の「現在の処,挿絵師は不祥とするしかなかろう」を踏襲することとしたい。『京童』の諸本については,これも先人の書誌学的研究が進んでいる。『京童』には,四種のものが存在する。①匡郭が最も大きく,挿絵の省略の少ない八文字屋五兵衛版を初版とし,②八文字屋版の版木と覆刻が混在する山森六兵衛版,③全面覆刻とし,「新板」とした山森六兵衛版,④③を利用した平野屋佐兵衛版の四種で,序文末の「中川喜雲撰」が銘記されるのが②からで,そのことからか,長く②の山森六兵衛版が初版であるという誤解が流布していた。『京童』検討資料の問題屏風との比較の基本としたたばこと塩の博物館蔵の『京童』は初版を文字部分も加え覆刻したもの(③の山森六兵衛版)で,初版と比べると覆刻の特徴でもある描線が硬くなり,細部に省略がみられるが,『京童』自体の挿絵が細密なものではなく,覆刻であっても本調査の重要項目である構図に大きな差異はない。『京童』覆刻における挿絵の省略・差異は,岩や樹木などの影の部分が,初版では細い線の集合であったものが,墨の面になったり,草木の細かい描線が少なくなったりするものや,版の摩滅もあろうが描線が太くなるもの,あるいは,空白部に初版にない線が加えられる(空間処理としてのもので,版が異なる証明としては大きな問題だが,これにより構図が変更されるといったものではない)などのものである。歴博E本との各図の比較において,構図の借用あるいは,モチーフの利用が問題となる。当然,版本は墨摺りの単色の印刷物であり,屏風は彩色された絵画で,後述するが屏風と版本の間には,子細な部分にまで及ぶ模写的なものは見られない。本調査では,身近にあるたばこと塩の博-144-
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