鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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物館本を基本的な比較資料とし,善本とされる八文字屋五兵衛版を底本として影印した『近世文学資料類従古板地誌編1』も加えて歴博E本の各図と比較した。歴博E本と『京童』の比較検討今まで述べてきた双方の背景を踏まえつつ,つき合わせる形で両資料を検討した。双方のつき合わせの結果を一瞥できるよう表IIにまとめた。この表は,『京童』の目録(各巻記載順)により,その「挿絵の題」・「歴博E本の短冊」・「屏風の描写位置」・「『京童』と歴博E本の内容比較」の項目でまとめた。屏風の描写位置については,前述のとおり,各扇紙継がほぼ同じな事から,右隻か左隻かを右・左,どの扇かを1■ 6の数字,各扇の第何紙に位置するかを一紙上とし以下,二紙中,三紙下と便宜上定めた(例えば,右隻四扇の第三紙に当該図があるとすれば「右4下」という表記となる)〔図1〕。また,『京童』にはない図や地名も見られ,それも別表にまとめた(表III)。これらの表を作るに際して一応『京童』の項目を基本として組んだのは,歴博E本の短冊が一部判読不可能であったり,明らかな間違いが認められたこと,さらに,剥落の可能性もあることなどから,八十七の項目が確実にあげられる『京童』を基本としたのである。これで歴博E本の短冊と合せてみると『京童』にあって屏風にないもの三箇所(僧正嶽・日吉・湖(琵琶湖)),その逆の屏風にあるが『京童』にないものが十九箇所であった。表は,『京童』の目録をまず置き,次に『京童』の挿絵の表題,次に歴博E本の短冊の表記とし,位置として屏風のどの部分かを示し,最後に比較した結果を記したものである。この表をご覧いただけば,一目瞭然だが,①双方同じ場所でほぼ同構図(◎記号)は六十五箇所もあり,②一部利用したと見られるもの四箇所,③さらに全く異なる場所に人物のみ利用しているもの十三箇所を数える結果となった(参考図版各図参照)。数字的には①のみで『京童」全挿絵の75%であり,これに②を加え,歴博E本にない三箇所を引いて試算すると82%となる。ただし,建造物については,『京童』の挿絵は正面で捉えたもの,つまり平面的であるものが多いのに対し,歴博E本は斜から描いたものが多い。これは,洛中洛外図の一つの約束でもある特定の位置からの眺望である限り,描かれる建造物は一定の法則に沿って通常斜から描かれることで,空間の広がりを演出する。正面からのものも例がない訳ではないが少ない。しかし,歴博E本は,その約束は踏襲しているものの,前述のとおり建物の向きに視覚的法則性-145-

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