挿絵の部分的転用について歴博E本には,『京童』の挿絵を全体に使用したものと,同時に挿絵中に描かれた人物のみを抽出し,挿絵と異なる場所に転用(このような使い方を本論では以下「転用」とする)ものも多い。この転用例の判明したものを一応表にしたものが表IVである。現在のところ表にあるだけ確認しているが,この問題については,今後増加する可能性を持っている。その転用のしかたであるが,幾つかの傾向がみられる。①屏風中の当該箇所に利用しなかった挿絵中の人物図を異なる場所の群衆や通行人などに,同構図や人間個々に写したもの。②挿絵を屏風の当該箇所に利用しているが,その中で省略した人物を①と同じに利用したもの。③挿絵を屏風に使用しているが,その中の幾つかの人物を再度利用したもの。④群舞などに③と同じであるが,繰り返し同じ人物を描いたもの。などが見られる〔図9■10〕。洛中洛外図のような,大画面において群衆描写が連続して描かれるような形態の絵画には,ある程度,同一画面中に類似の構図や人物が描かれてやむを得ない部分もあるが,歴博E本の場合は,粉本からの転用であり,さらに同一作品上の異なる部分への再転用がなされるという状況が特徴的といえよう。『京童』に見られない図について今まで述べてきたように,歴博E本はその主要箇所において,先行する版本である『京童』を粉本とし,挿絵の多くを利用している。しかし,『京童』の挿絵にない箇所も存在し,その内,短冊が貼付されてあるところは,表IIIにまとめた。この表にあるものは,ほとんどが短冊のみか,建造物の屋根や一部,あるいは土破・河川などが描かれたにすぎないものである。その中で,建物と人物が描かれているのは「大とくし(大徳寺)」と「おむろ(御室)」〔図10〕の二箇所で,人物に関しては,ともに再利用で他の部分から集められた人物図である。この大徳寺の堂子をはじめ,「こくうそう(虚空蔵)」「とうみゃうし(燈明寺)」などに建物が描かれているが,粉本が存在するかどうかは現在調査が不十分で判明しない。また,右隻の「けいせいまち(島原)」及びその上部の商店らしき町屋や左隻中央部の二条城を挟んで左右に描かれた同様の町屋は,往来の人物に『京童』挿絵からの転用が散見されるものの,全体的な粉本は,やはり調査不足で現在判明しない。共に今後,調査を継続することにより,粉本は特定できるものと考えられる。因みに,今回-148-
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