鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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♦は,挿絵の一部は使用しているが全体的にかなり異なるれは,挿絵ー図か二〜三の複数を一幅の絵画にするようなものが多く,一つの版本から中屏風とはいえ,大画面の絵画作品になったものは著者は,この歴博E本と『京童』の関係以外見聞がない。歴博E本は,版本挿絵を粉本とする絵画の在り方について,美術史をはじめ近世文化・文芸にまたとない好資料として受入れられるものと思う。そして,著者は今回の相互の関係を所謂「仕込物(絵)」に属するものではないかと考えるのである。それは,前述のとおり『京童』という版本の挿絵を大量に利用し,さながら,絵を場所に当て填めるかのような利用のしかたや,現在まだ粉本が判明しない部分があるにせよ,あまり絵師の独創とも考えられないことなどが理由となろう。制作年代は前述のとおりおそらく洛中洛外図の最盛期は過ぎており,その需要も変化してきたころの作品と思われ,受注制作ではなくあらかじめ描き置いていたものではないかと考えられる。つまりそのような状況の中,それまでにない形の地誌として出版された『京童』が絶好の粉本になり得たのであろう。この考えが的を外れていなければ,歴博E本は美術史的に,粉本の特定などから例示が難しい「仕込物(絵)」の好例としても位置付けられるのではないだろうか。いずれにせよ,今後調査検討を継続させることにより,さらに明確に示せるものと考える。表に用いた記号◎は,『京童』挿絵とほぼ同構図▲は,図はあるが挿絵を使用していない△は,屋根・土波などのみの描写で挿絵は使用していない*は,短冊のみで図はない-150-

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