(7) 奈良・唐招提寺像二指にくらべると当初材の矧ぎ面もわずかに上向きの角度をもっており,浄土寺像ほどではないが,第三指に添えるように曲げていた可能性が高い。先にみたように,快慶作品にかぎらず鎌倉中期の如来形の場合,腹部にはU字形を繁く連ね,脚部は左右の大腿部上に直線的な衣文を刻む例が比較的多く,その他では地蔵菩薩立像にしばしばみられるように,腹から脚部にかけて縦にU字形を流す例などがあるが,いずれも左右対称の衣文形式を基本とする。一方,本像のそれは明らかに左右不対称であるが,屈臀して持ち上げた左手の動きに対応した写実的な衣文表現をねらっているかに観察される。このような衣文表現の淵源をたどる際に参考となるものとして,やや唐突かもしれないが,京都・東海庵の高麗画の阿弥陀如来像をあげておきたい。本像の裳裾は足首を完全に隠して台座にかぶさっており,また右足先を少し持ち上げるようにして踏み出す点も本像の形制上の特徴である。像高78.6cm。金泥塗に載金文様を表す。玉眼を入れ,内剖をほどこす。像表面の保存が良く,矧目はあまりよくわからないが,頭部では耳中央を縦に通っている。僧祇支をつけ,右肩をおおう偏杉は右腹部でたるみ,袈裟にたくしこまれる。袈裟は偏祖右肩につけるが,右肩にかかって腎近くまで垂れる。裳は右腔の内側辺で左を外にして合わせる。左手は屈臀して仰掌し,第一・三指を相捻じ,第四指もこれに添えるように曲げていたものと思われるが,いま指先を欠失している。右手は垂下して掌を正面に向け,全指を伸ばす。体部正面の衣文形式は,縦にU字形を連ねるもので浄土寺像と同巧だが,一部に松葉状に分岐する衣文を表して変化をつけている。また本像では,裳裾を後方に長く引きずっており,踏み出した右足の動きと相まって流れるような運動感を表現している。作風の上では,瞳の大きなはっきりした眼ざしや,ぴっちりと張りつめたような頬の皮膚の質感,針金めいた腰の強さを感じさせる衣文の彫法に特色があり,異彩を放っている。類例をあげれば,クリーブランド美術館・幸舜作阿弥陀如来立像や鎌倉・極楽寺の-165-
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