鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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■探幽縮図研究史⑯ 狩野探幽の研究(1)ー一探幽縮図―とくに風景スケッチに関して研究者:静岡県立美術館学芸員山下善也はじめに《探幽縮図》とは,おもに狩野探幽(1602■74)が中国・朝鮮・日本の古画に接するたびに行なった縮小模写類のことで,画巻等に合装され各地に分蔵されている。多くは,探幽行年書き時代(寛文元年〜延宝2年・1661■74)のものである。同縮図は,原図の作者・所蔵者,鑑定結果などの「留書」を伴うため,江戸初期における貴重な「伝存絵画目録」となっており,近世以前の絵画史研究にしばしば活用されている。探幽研究においても,同縮図はきわめて重要な研究対象である。留書に年記を有するものを編年してゆけば,探幽晩年における古画学習の様相を具体的に知ることができるし,縮図の編年と文献史料等から知られる事跡とを合わせることにより,晩年の編年をより細やかなものにすることができるからである。ただし,《探幽縮図》全体にわたる整理・検討は容易ではない。後述のように,河野元昭氏をはじめ諸先学のご尽力により,諸本の留書の翻刻公刊が進められてきているものの,未翻刻のものも含め縮図の全体量が膨大だからである。しかし,将来,縮図諸本を統合し,全体を一覧できるようにする必要があるだろう。《探幽縮図》は,古画模写だけではない。《探幽縮図》と見倣されているものとして,花鳥や実際の風景の現場スケッチがあり,古画模写と同様,探幽の作画を考えるうえで,重要な意味を持っている。拙稿では,これらスケッチ類,とくに風景スケッチに注目し,その整理・解題を試みたいと思う。それに先だち,《探幽縮図》の研究史を確認しておくこととする。《探幽縮図》の重要性は,古く昭和7年(1932),脇本十九郎氏によって指摘されているが(注1)'本格的・具体的な研究が始まったのは近年である。まず昭和53年(1978)6月,本間美術館が「狩野探幽縮図展」を開催,京都国立博物館(以下,京博)本・東京国立博物館本など《探幽縮図》27件が一堂に展観された。つづく同55■56年,京博編『探幽縮図』上下が刊行される(注2)。同書は,京博蔵の-216-

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