鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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同61年,文人画研究所本《探幽縮図》,巻子・冊子等38件,掛幅76件が,藪本荘五郎縮図46件約1,200図を収録するもので,全図版・留書翻刻・索引・年表が整備されている。《探幽縮図》の留書の多くは,御家流の書とは異なる癖のつよい草書であり,後述の諸翻刻も同様だが,本書の翻刻はたいへんな作業であったと想像される。同56年,大倉集古館が,巻子・冊子等91件,掛幅67件におよぶ各地の《探幽縮図》をあつめ展観する大規模展を開催,その目録および大倉集古館の縮図7件を収めた翻刻が刊行された(注3)。つづく同56■57年,河野元昭氏が,狩野探幽研究の立場から,各地に分蔵される《探幽縮図》の全体像を概観され,とくに平福家本の内容を中心に,《探幽縮図》の重要性と絵画史的な意義,問題点を具体的に指摘された(注4)。氏の翻刻により公刊された(注5)。ご労作で,京博刊本の形式に倣いつつ,さらに原図が現存するものについて,原図図版も併載し,探幽外題の写真まで収録するという充実した内容をもっている。限定本であるが,各地の主要研究機関に架蔵されており,研究者はそこで利用することができる。その後,河野元昭氏が,MOA美術館本・東京芸術大学本の留書翻刻をなされ,内容の公刊につとめられるとともに,ひきつづき探幽と縮図の関係を考察されている(注以上のように,河野元昭氏や京博,大倉集古館,文人画研究所のご尽力により,《探幽縮図》の翻刻,刊行がすすめられてきた(注7)。このほか《探幽縮図》は,大和文華館・大阪市立美術館・東京国立博物館・成城大学・平福家・京都Y家・その他個人に所蔵されており,京博にはまとまった数の《探幽縮図》がさらに収蔵されたときく。これらの翻刻・公刊が待望されるだろう。河野元昭氏は,「主要な諸本の留書の解読を終了し,索引の作成を準備している段階」(注6-2)とのことであり,翻刻の電子化整哩などお手伝いさせていただければと願っている。これら《探幽縮図》には,古画模写ばかりでなく現実の花鳥や風景のスケッチが含まれている。古画模写の縮図とほぼ同大(縦12■14cm),同紙質の紙に墨・淡彩描という形態のため,しばしば古画模写と同類視されている。内容としてはスケッチと古画模写は異なるものであり,区別されるべきものである。しかし探幽にとって,スケッチと古画模写とは,私たちが区別するほど意味の異なる行為だったのだろうか。私たちはつい,近現代の絵画観から,古画模写より現物写生の方が意義ある行為と考えて6)。-217-

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