(1) 本研究の前半は,フィレンツェの“ARTISTA"誌に発表した拙論をもとに,そ"Madonna del Popolo", "Artista", 1994, pp.92-103. ino 1976, p.201. (3) Ibid., p.184. (5) Ibid., p.184. に載ったキリストの皮膚の小片を指差し,二人の羊飼いに示している〔図14〕。牧杖と笛を携え,肩を大きくはだけ,粗末な衣をまとった羊飼いは,知識や思弁を超えた素朴で純真な心によって,この聖なる場面に参列している。ネーリの死後にオラトリオ会のために描かれた《聖母の神殿奉献》(1593-1603)では,羊飼いたちの登場はさらに大規模になっている〔図15〕。肩をはだけて羊を引く男,子牛を扱う牧童,オカリナを吹くのに夢中な小さな牧童,そして杖で身体を支えて,この晴れがましい情景を心に浮かべる盲目の羊飼い。その反対側の階段で,麦藁帽子を置いて憩うのは,鳩を売る農家の娘である。「多くの単純で信仰の篤い者たちは,知識のある者よりも敬虔であり,神や魂についてはるかに目が開けている」。こうしたカプチン会の理念(注28)は,ネーリのそれとも共鳴しながら,バロッチの筆を通して,愛すべき民衆のイメージに結実している。そして階段を昇りきった幼いマリアは,頭を垂れて膝まづき,交差した手を胸に当てた謙譲の姿勢で,祭司の祝福を受けるのである(注29)。やはりオラトリオ会のための《聖母のエリザベツ訪問》(1583-86)では,奇跡の懐妊を祝福しあうエリザベツとマリアが,神を信じる者のよろこびを分かちあっている〔図16〕。そしてマリアの後ろから穏やかにこの情景を見つめる侍女は,麦藁帽子を背中に下げ,鶏を篭に載せて運ぶ農家の娘の姿で描かれている。フィリッポ・ネーリはバロッチのこの作品を非常に愛し,絵の前でしばし法悦の時を過ごすのを常としていた(注30)。絵の中で最も大きく描かれたこの素朴な女性の清らかな詩情は,ネーリの心に深い情愛と共感を呼び起こしたのではないだろうか。の一部を改訂したものである。N.Kai, Federico Barocci, i Cappuccini, la (2) G. P. Bellori, Le vite de'pittori, scultori et architetti moderni (1672), Tor-(4) Ibid., pp.184-185. 注-17 -
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