⑪ 中国仏教造像碑の調査研究研究者:恵泉女学園大学非常勤講師石松日奈子石材の各面を利用して多数の仏像と銘文を彫刻する造像を「造像碑」と称している。5■6柑紀の中国南北朝時代に,石灰岩や砂岩,大理石や黄華石などの美石を使って盛んに造像された。造像碑は高さ数十センチの小型のものから五,六メートルもある大きなものまであるが,腺像の種類が豊富で,かつ年記や造像内容に関する銘文を有する率が高いため,仏教造像史研究にとって貴重な情報源である。さらに,そこに表された仏像は小規模とはいえ時代や地域の特色をよく示しており,石窟造像を軸にした中国彫刻史の間隙部分を補う重要な資料といえる。また,発願者の階層は王族から庶民まで様々で,当時の仏教信仰の状況を知る上でも重要である。本研究は中国における「造像碑」形式の成立とその展開について究明することを目標とし(注1)'その基礎作業として,具体的な作例に関する情報収集と実地調査を行った。とはいえ,石窟と違って造像碑は独立した作品であるため,移動されたり外国へ持ち出されたケースが多く,また,複数の石材を積み上げたり組み合わせたりする造像においては,碑台部や屋根などの部材が失われた例も数多く,製作当初の完全な状況を知ることは難しい。また,造像碑の作例は現在把握しているものだけでも優に百件を越え,このほか中国国内にはいまだ調査や報告がなされていない作例が相当数存在するものと考えられる。そこで,まず初年度は所在が明確な欧米の美術館での調査を先行させ,同時に日本所在分,および中国国内所在分のうち報告が出ている分についてデータを収集した。日本所在の作品については,個人収集家所蔵のものを除けば,すでに多くの研究書やカタログによって紹介されている。一方中国国内所在分については,筆者自身が過去の訪中の際に調査済みのものが若干あるものの,大部分は未調査で,次年度以降の計画を検討中である。ただし中国国内での情報収集や現地調査は決して容易ではなく,関係各方面の理解と援助を切望するものである。さて,こんにち広く「造像碑」と称されているものには,銘文に単に「石像」とするほかに「石碑像」「碑像」「石像碑」「像碑」「神碑」「浮薔像」「須弥塔」「塔像」「四面像」「石柱」「四面石柱」「天宮像」など様々な呼称がある。また,形状も中国の伝統-278-
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