鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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を背景に白波の上を駆け回る天馬が,外側に緑・黄•青・白の四頭,見込みに黄色の①民窯Bー海馬文く素三彩海馬文碗〉大和文華館蔵〔図2〕器形は直立する口縁から半球状にふくらむ碗形に続く。緑地に黒で線描した渦巻文一頭が描かれている。天馬の周りには白梅文,青・紫の花文,黄・白・青の宝珠が散らされ,見込みには火炎宝珠や法螺貝なども添えられている。白の部分は,白濁した釉薬を塗り込めており,他色との境目には素地がのぞいている。底裏には銘がなく,ムラのある緑釉が一面に塗られている。②民窯C一人物図く素三彩人物図角鉢〉東京国立博物館蔵〔図5〕薄作りで非常に軽い。口縁はかる<外反し,四隅が内に入る角形の胴は,腰が平らに折れて高めの高台がつく。曲線で構成されながらも直線的で鋭い形であり,窓絵を囲む黒釉の部分が器形をさらにひきしめて見せる。黒釉には上から緑釉が塗り重ねられている。各四面の窓絵と見込みには,緑・淡緑・白・黄・紫褐色に黒の描線で文人の姿がこまやかに描かれる。底裏には青花二重円内に,明末清初民窯品によくある「大明成化年製」の偽銘が入れられている。③官窯Aー龍文く素三彩龍文碗〉個人蔵〔図10〕同じ大きさの康煕官窯青花碗と比べると,高台内には不純物による黒点が多くみられ,高台の緑釉がはみ出すなどやや粗い作りである。暗花と呼ばれる彫り文様で素地に雲龍文を飾り,これを素焼した後,地には緑釉を,暗花の雲龍・宝珠・波濤文上には紫釉を掛けて再度焼成している。龍は皇帝を表す五爪の龍で,底裏には青花二重円内に官窯銘「大清康煕年製」銘が入る。④官窯B一瑞果文く素三彩果花文盤〉故宮博物院蔵〔図12〕盤内外は黄みがかったやわらかな白色釉か掛けられ,青みのある透明釉とは発色も質感も異なっている。見込み全体に一つの龍文が暗花でのびやかに彫られ,その上に石櫂と杏各一枝の果樹が枝を広げている。果実の色は黄・黄緑・淡緑・紫で,黒の輪郭線が実のふくらみを伝えてくる。四果の石櫂からは種がのぞいており,五果の杏には跛や果皮の点々も描かれる。また石櫂の葉は細長く,杏の葉は丸みのある形に描き分けられている。各色釉が白の上でやわらかくにじみ,さらにあるものは白釉の中に入り込んでいる。これは,内藤匡氏によれば低温釉の白釉が焼成中に溶けて,その中に色釉が沈むことによって生じる効果であるという(注8)。上から見ると,まるで白釉の中に色とりどりの果実を封じ込めたかのようである。底裏に青花「大清康煕年製」-303-

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