鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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⑭ 鎌倉時代初期慶派無銘彫刻の基礎的研究迄定寺木造阿弥陀三尊像をめぐって一研究者:奈良国立博物館学芸課研究員蠣波恵昭はじめに鎌倉時代初期の彫刻史は,運慶,快慶ら慶派仏師の作例を中心として研究が進み,近年では慶派の諸仏師や慶派以外の系統の作品についても数多くの作例が紹介され,鎌倉彫刻史の全貌が姿を現しつつある。とくに,快慶については作品にも恵まれ,近年の山本勉氏の研究などにより作品の検討は進んできた(注1)。さらに,快慶の様式を継承する系統の作品群が具体的に認識されるようにもなった。また,快慶の後継者の中で最もその正系に属すると考えられる行快の作品についても,近年の研究の中で新たに作品が確認され,快慶との関連の中で様式の具体的な展開が明らかにされつつあるということができる(注2)。その一方で,銘記などはないものの,これらと関連する作風の像についてもいくつか紹介され,鎌倉初期の彫刻史の展開を実りあるものにしつつある。本稿では,そうした研究の流れの中で,これまでほとんど紹介されることのなかった峯定寺阿弥陀三尊像をとりあげ,快慶および行快の様式の展開の中でどう位置づけうるかという側面から,面相や衣の彫法などの細部の検討を加え,快慶・行快との比較を行いたい。また,鎌倉初期のほぼ完備する三尺立像阿弥陀三尊として貴重な本作例を中心に,安阿弥様の三尊像について若干の展望を試みてみたい。二,峯定寺阿弥陀三尊像の概要まず三専の概要を述べよう。峯定寺木造阿弥陀三尊像は,像高八ー・八センチをはかる阿弥陀如来立像を中尊とし,左脇侍に観音菩薩立像,右脇侍に勢至菩薩立像を従えた来迎相の阿弥陀三尊像である〔図1■14〕(注3)。〈阿弥陀如来像〉右手を胸の高さに構え,左手は大腿部横で,両手とも第一・ニ指を捻じる,いわゆ-317-

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