コレクションの展示方法蒐集された美術品はどのように陳列され鑑賞されていたのだろうか。一般の邸宅の応接のサロンには,室内装飾に当初から組み込まれた扉口上部絵などの木製の壁の枠にはめた絵画以外にはほとんど絵を飾らなかったようである。いわゆるロココ風の建築では壁にはボワズリーが施されたり,鏡が填められたりしていて,絵画を数多く掛けるのには適していなかったからであろう。そして控えの間に家族の肖像画を,居室の内側の小室,寝室のアルコーヴの上などに小品を掛けるというのがよく見られる光景であった。蒐集家はサロンにも絵画を掛け,特に多くの作品を持っている場合はキャビネ・ド・タブローを設けた。そのキャビネは壁の低い部分を腰羽目板で覆い,その上方をダマスク織りの絹張りにして多くの絵を掛けるというものであった。ダマスク織りの色は深紅,緑が好んで選ばれている。キャビネは通常北向きで居室とは区別されたが,書斎として使われることもあった。美術工芸品もキャビネ・ド・タブローにまとめて置かれるのが普通で,コンソール・テーブルや暖炉の上に工芸品が飾られていた(注17)。当時のキャビネでは,壁の上方に大型の絵画を,そして下にいくほど小型の絵画を壁いっぱいに掛けるのが一般的であった。大抵の場合,3段にして並べられたが,余裕があれば4段並べることもあった。展示の仕方の第一の特徴はひとつの部屋,ひとつの壁にイタリア,北方,フランスそれぞれの画派の絵画が混在しているということである。部屋数は多いが,ひとつの部屋をひとつの画派で飾ろうという考えはほとんど見られない。しかし,なかには少数派と思われるが,部屋ごとに分類した蒐集家もいた。ル・ノワール・デュブリュイユは,フランドル派をサロンに,フランス派をサロンの左の部屋に掛け,サロンの右の部屋には素描を数多く掛けていると記されている。またノワイユ元帥は第一室に主としてイタリアのルネサンスとバロック絵画を,第二室には17世紀オランダ派を数多く,そして第三室にはフランス派を,という具合におおまかな区分をしていた(注18)。第二の特徴は,シンメトリーに絵を飾ろうとする強い意欲である。縦長,横長,楕円といった額画の形と寸法が絵画内容よりも優先されたと思われる。対画は作者が違うことも多いが,風景画,肖像画などは本来対画であったものもかなりあっただろう。当時の図像資料として個人蒐集家のキャビネを描いたユベール・ロベールやサン=トーバンの素描が残っている〔図1,2, 3〕。これらを見ると壁に沿って椅子を並べ-360-
元のページ ../index.html#371