描く技術は朝鮮から伝わり，志野の文様や形が絵唐津において模倣されたと推測される。1590年代に唐津には叩きの技法はすでにあり，甕や徳利が作られている。紐作りで積み上げ，内面に当て木を添え，外側から叩き木で叩き締め薄く丈夫にする。この技法は朝鮮からの伝来であり，九州各地の窯場には朝鮮陶工により叩きの技法が導入された。しかし美濃には伝わっていない。意匠は簡単に伝播するが，技術は人の移動によってしか導入しにくいのであろう。このことは絵唐津と志野を比較するときに重要である。日本で最初の釉下彩は，はたして美濃で独自に開発されたのであろうか。志野の初期的なものとして灰色の釉色をもつ灰志野があり，これは天正年間(1573■1592年）に現われるとされる。しかしそれまでの窯業技術の発達のパターンからすると，美濃独自の開発で釉下に鉄絵を描くことができたとは考えにくい。なんらかの人の移動や参考となる作例が必要である。絵唐津には朝鮮からの技術導入という根拠がある。絵唐津が志野より早く出現しているという証拠はない。しかし技術革新の一般的な傾向からすれば，日本の窯業技術は外部からの導入によって発展してきた。重要な技術ほど，人が動いて技術が導入されたという事例が多い。絵唐津は朝鮮の陶工によって唐津に最初もたらされ，次いで美濃に導入されたという仮説を提示しておきたい。唐津から美濃へは人が動いたのか，あるいはやきものが美濃へもたらされて模倣され，志野が生まれたと考えてみたい。そして，意匠において優れた志野の文様や形状が，今度は唐津に影響を与え，志野に似た絵唐津が生まれたと考えられる。志野の出現時期については，大坂城の発掘調査によれば慶長3年(1598)以降とされる。これは大坂において志野が使われ始める時期についての見解であり，必ずしも美濃における志野の出現時期という訳ではない。また大坂城において志野が出土する場所には必ず唐津が共伴するという傾向がある。このことは志野と唐津が消費地においてすでに商品として競合していたことを意味する。白いやきものは白濁した藁灰釉によっても作ることができる。全体に藁灰釉をかけた斑唐津と呼ばれるやきものは，唐津の初期にある。この藁灰釉は，美濃には導入されていない。美濃には志野の長石釉があるため，唐津の藁灰釉を美濃に導入する必要はなかったのであろう。藁灰釉は当初は単独で用いられたが（斑唐津），鉄釉に藁灰釉を組み合わせて流した朝鮮唐津が引き続いて作られる。-419-
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