注究される機会は余り多くなかった。美術史と文学史研究の狭間にあり,幅広い浮世絵研究史の中では単独で扱われることの少ない絵本作品を改めて見つめることで,層の厚い鈴木春信研究に新たな局面を加えることができるであろう。絵本は浮世絵研究に必要とされる数々な情報を内包しており,一層研究を進めることで,より興味深い示唆を与えてくれるものであると確信している。今後も個々の作品研究と同時に,絵師の制作状況を知る有効な手掛りとしても,絵本の研究を進めていくつもりである。御助成を頂いたことに,心から感謝したい。(1) 原史彦「大久保巨川と阿部沙鶏」(江戸東京博物館企画展図録『錦絵の誕生』平成8年3月刊行)参照。(2) 現在のJR神田駅周辺にあたる。(3) 小林忠「錦絵の誕生_江戸庶民文化の開花ーー」(江戸東京博物館企画展図録『錦絵の誕生』平成8年3月刊行)参照。(4) 『絵本舞台扇』彩色摺大本3冊明和7年(1770)正月刊一筆斎文調.勝川春章/画雁金屋伊兵衛/版早稲田大学演劇博物館蔵。扇面形に役者の半身像を描き,枠外に役者名,俳名を記した似顔絵本。文調が57図,春章が49図を担当。(5) 『青楼美人合』彩色摺大本5冊明和7年(1770)6月刊鈴木春信/画丸屋甚八・小泉忠五郎・舟木嘉助/版国立国会図書館蔵。鳥居清信の『娼妓画牒』(元禄13年〔1700〕刊)などの遊女絵本以来,数十年ぶりに刊行された遊女絵本でもある。(6) 『わかな』玉蛾・桑也/編勝間龍水・英一蜂/画宝暦6(1756)年刊彩色摺混入大本1冊財団法人柿衛文庫蔵。貞左衛門江戸座俳人清水超波の十七回忌集。超波の遺句十七章に,英一蜂・勝間龍水の挿し絵を配す。龍水の9図は彩色摺で,色摺俳書の初期のものとして重視される。(7) 『うみのさち』石痔観秀国/編勝間龍水/画彩色摺大本2冊(合本)宝暦12 (1762)年刊千葉市美術館蔵。勝間龍水が時々に描いた魚や貝の絵本を秀国がすすめて刊行させた色摺本。画賛発句を添える。雲母を施すなど,魚の皮質感を出すために工夫がこらされている。(8) 『山の幸』石舟観秀国/編勝間龍水/画『山の幸』江戸松本善兵衛他一軒/版-489-
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