鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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表現した画風は,牧硲作品にくらべると平穏で劇的な要素はすくないものの,相阿弥のなかに引き継がれている。しかし,相阿弥の周辺作品になると,光や大気など形のないものの表現は困難であるために,残念ながら力不足であったり,牧硲の灌湘八景図の光や大気の解釈からはなれて装飾性へとかたむいたり,モチーフを繰り返して八景を構成する形式的なものへとうつったりしている。他方,玉澗の撥墨による印象的な光と大気の表現は,雪村の光にたいする感覚のなかに継承されていると考える。等春も撥墨によるドラマティックな八景を描くが,大気のなかですべてのモチーフが溶け合うような点に,彼が牧硲や相阿弥の光と大気の表現にも理解を示したことがわかる。なお,室町時代の灌湘八景図の光や大気の表現は,たんに上記のように2分化されるものではない。秀盛筆「灌湘八景図」(個人所蔵),岳翁筆「灌湘八景図」(香雪美術館所蔵),祥啓筆「灌湘八景図」(白鶴美術館所蔵),狩野元信筆「灌湘八景図」(東海庵所蔵)など,牧鉛や玉澗の系譜上で語れないものは数多くあり,複雑な様相を呈している。[灌湘八景図リスト]凡例館,寺院,個人,つぎに海外の所蔵者,所蔵者不明の順である。リストの簡略化をはかるため,所蔵者については下記のとおり記号で表わしている。Aは美術館/博物館,Bは寺院,Cは個人(コレクター,美術商),Dは海外の所蔵者,Eは所蔵者不明を示す。1. リストにおける作品の配列は,所蔵者別とし,まず国内の公的機関,私立美術AOl 文化庁A04 群馬県立近代美術館A05 栃木県立博物館A06 静岡県立美術館A07 名古屋市AlO 福岡市美術館A13 萩市郷土博物館Al6 畠山美術館A19 陽明文庫A22 徳川美術館A02 東京国立博物館A03 仙台市博物館A08 岡山県立美術館A09 山口県立美術館All 熊本県立美術館A12 鍋島報交会A14 出光美術館A17 静嘉堂文庫A20 本間美術館A23 大和文華館-528-A15 根津美術館A18 梅沢記念館A21 MOA美術館A24 正木美術館

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