2点を“Secretblock for a secret person in Ireland"に転用している。素描は鉛筆(1993)のカタログの序文が現在のところ最も確かな情報を与えている((注5)およ9)。すでにマルチプルに収録されている6つのモティーフとならんで,ボイスはグラスケッチブックよりもむしろ大きな版型の一枚ずつ独立したリトグラフ作品である〔図5〕。あまり我々が手にとって見る機会に恵まれていないボイスのこのスケッチブックと,それよりもやや大型のリトグラフの素描作品との関係は従来あまりにもあやふやなままにされてきた。ちなみにミュンヘンの国立図書館(BayerischeStaatsbibliothek Mtinchen)でマルチプルとなったスケッチブックを閲覧する機会に恵まれた筆者でさえ,この研究をはじめるまでは,スケッチブック内の100枚を越える素描と,これとは切り離されたリトグラフ作品との関係について正確に把握できていなかった。この点についてはミュンヘンでごく小さな規模で催された「ボイスとレオナルド展」び(注7)を参照)。「ボイスとレオナルド展」の序文によれば,1975年にマルチプルとして出版されたスケッチブックは,グラノ・リトグラフ製版,すなわち特別粒子の細かなオフセット印刷で,初版1000部が通し番号付で複製された。マルチプルの版型は23Xl6.5cm(スケッチブック内に印刷されているグラノ・リトグラフの素描の大きさもこれと等しい)。この1000部のうち,特に1番から100番のものには,別に,ボイスのサインの付いた12枚のリトグラフ(30X24cm,台紙を含めると40X32cm)入りファイルが一点ずつ添付されている〔図6〕。この12枚のリトグラフに描かれているモティーフのうち6点だけは,マルチプル(のスケッチブック)の中に見られる。101番から1000番までのもの(つまり残りの900部)には,異なるモティーフで描かれた9枚の素描〔図7〕(グラノ・リトグラフ製版,ボイスのサイン付,23X32cm,中央で縦折りにすると本の大きさに重なる)が挟み込まれている。もともとこのプロジェクトのためにボイスは全部で約200枚の素描を描いたが,一冊のスケッチブックの体裁を持ったマルチプルには,そのうち106点だけが収められた。ボイスはこの素描のオリジナルを1974から75年にかけて制作したといわれている(注ノ・リトグラフのための原本よりも以前に描かれた素描を6点,特製のファイルに収めている。彼は,このマルチプルのために制作された素描のオリジナルから,さらにで補筆され,さらに水彩の風景画として仕上げられることになる。今日素描のオリジナルはその大部分が,DiaCenter for the Arts, New Yorkに所蔵されている。-584-
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