鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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第3セクション「芸術と文学」,単独発表岡林洋「ボイスと川俣注(2) 「異種ジャンル間の交流」平成7年度芸研連シンポジウム6月24日(於大阪市ロジェクト(素描,彫刻などを含む)にまでさかのはることが明らかになってきている。またボイスはレオナルドの主要作品の構図を研究し,その分析結果を図式的な素描に残している(注10)〔図13,14〕。したがってボイスのレオナルドに対する関心は予想以上のものであり,また後者の全活動にまで及んでいたと考えられる。しかし本研究が一応今の時点で「なぜこれほどまでにボイスが『マドリッド手稿』に共感したのか」の問いに対して出した解答はむしろ現代的な視点に基づいたものである。それはこの表現メディアに両者が担わせていた高い役割とかかわる。ボイスは従来おこなってきた表現の方法とは全く対照的に『マドリッド手稿』に関しては,その四つ折り版の紙面頁の形式の束縛を自ら進んで受け入れてしまっている。『マドリッド手稿』ではレオナルドは全く連続的に文章や絵を並べようと試みていないが,しかし我々の眼は,レオナルドの造形のたくみさ統一させ,そして本全体に広がる一つの連関を予感させるこのたくみさにそそがれてしまう。ボイスにとって素描は,総合的な表象を同時に再現することによって,事物を観照者にばらばらにではなく,全体的な印象として与えることのできる唯一の造形メディアであったと考えられる。二人の芸術家にとって素描は一つの自律的造形言語であり,「メンタルスピーチ」の手段として他の言語への翻訳を必要としない。立東洋陶磁美術館),単独発表岡林洋「芸術のダブルキャラクターー一ーボイスの社会彫刻J/「精神科学の意味をめぐる日独シンポジウム」アレクサンダー・フォン・フンボルト研究財団主催,1996年3月30日,31日(於国立京都国際会議場),術について」“Beuysund Kawamata-Uber die Antitotalkunst"(日独両国語で当発表原稿はインターネット〔http://www.kclc. or. jp/humboldt〕で1996年7月に出版の予定)素描と文字を比較的小さな紙面頁の中に美的に反全体芸(1) Leonardo: Codex Madrid I II, 1491 -1505. (3) Joseph Beuys: Zeichnungen zu den beiden 1965 wiederentdeckten Skizzenbii-cher℃odices Madrid'von Leonardo da Vinci, Manus Presse, Stuttgart 1975. -588-

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