(1) カントリー・イデオロギー(2) 出費と使用の一致the Wall!)」(113f.:原文韻文,以下同)。詳解することで,従来見逃されてきた当時の庭園論的言説の豊穣さを例証したい。周知の通り『バーリントン伯への書簡詩』(『バーリントン』と略,引用には行数を付す)は,幾何学的・整形的庭園を批判し,自然へと開かれた庭園を推奨する。しかしそれは常に政治経済的負荷を担いつつ行われている。例えばこの詩の副題は「財産の使用について」であり,冒頭で示されるその主題は,「趣味」を欠く「大金持ち」が,庭園を含む芸術を「買う」ことで「富」を浪費する,その様を嘲笑し批判することである(1-4)。この批判は,政治的批判でもある。具体的に批判の対象となっている者の顔ぶれからも判るように,この詩は,宮廷と結託した当時の商業主義的・ブルジョワ的政権に対抗する野党勢力,「カントリー陣営」のイデオロギーを表明したものである。それゆえ例えば,有名な「ティモン〔タイモン〕のヴィラ」の整形庭園に対する嘲笑も,同時代の政治的文脈から読むことができる。すなわちそれは,時の宰相ウォールポール(或は彼を初めとする体制ホイッグの金権政治家達)の邸宅を戯画化したものであり,閉ざされた整形庭園を椰楡した次の一節における「壁」(Wall)の語にしても,ウォールポールのあだ名への言及とも考えられる。「次に称賛を強いられるのは,ティモンの庭園。ぐるり四方は,見よ壁だ.'(On ev'ry side you look, behold ティモンの整形庭園に関し就中非難されるのは,有用性の欠如である。例えば有用性に反する整形的「テラス」が椰楡されている(127-32)。逆に理想の庭,ティモンの息子の庭においては,全てが有用性に吸収され,虚飾の入り込む余地はない。次の〔息子の〕時代になれば,黄金色の穂が斜面を彩り,重くなった頭を花壇の上に垂れるだろう。ティモンの虚栄心が計画したものは,全て丈高く伸びた実りの下に埋もれてしまう。そして微笑む豊穣の女神が,領土を回復するだろう。その時,土地に恵みを垂れ,それを改良するのは誰か。……使用のみが出費を清める。壮麗さはその光輝を全て感覚から得る。その者は,父の地所を平和のうちに享受する。地所を拡大しても,隣人達を喜ば-617-
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