19世紀末のヨーロッパ芸術に広くゆきわたった象徴主義にその源をみることができる。(03年第2号)に彼の論文を掲載するための役割を担っている。また,チャールズ・の理論をもってはいなかった。彼の話からしばしば出てくる言葉は,真実,誠実,生命力,激しい感情,みずみずしい構想力,などというものだった。そして,「私は教理ではなく生活に魅かれるのだ。あらゆる主義はひとつの真実の種にすぎず,それぞれは一面なのである」と述べる。このことから,生活と芸術,そして真実が共存しかつ同一のものとする考え方が,291を包む暗黙の信条であったと推測することは可能であろう。こうした芸術と生活の融合や,個人の内面的な精神性を深く問題にする思想は,事実,スティーグリッツの芸術に関する言葉の中には,象徴主義の主要なイデオムである<理想〉<魂〉〈美〉<真実〉く現実〉といった表現が頻繁に出てくる。こうした背景には,スティーグリッツの美学論に少なからず影響を与えた人物の存在が大きな役割を果している。『カメラ・ワーク』の常連批評家サダキチ・ハルトマンとチャールズ・カフィンは,ともに象徴派的教養を濃厚に持ち合わせていた。サダキチ・ハルトマンは,ベルギー象徴派作家モーリス・メーテルランクを崇拝しており,『カメラ・ワーク』カフィンは,ホイッスラーや日本の浮世絵版画の意味など象徴主義やアール・ヌーヴォーの造形的関心を強くもつ人物であった。そしてスティーグリッツの盟友エドワード・スタイケンは,元々ロマン主義的,象徴主義的な芸術に対する憧景をもつ芸術家であった。雑誌『カメラ・ワーク』の表紙を含めたトータルなデザインは,イギリスのアール・ヌーヴォー雑誌で知られるアーサー・マックマードーの『ホビー・ホース』ゃ,ビアズリーが関係した雑誌『イエロー・ブック』などにみられるアール・ヌーヴォーの洗練された感性と共通するが,編集内容も含めたこのデザインはスタイケンの仕事であった。また彼の肖像写真家としての眼も,1900年から02年にかけてパリで撮影したアルフォンス・ミュシャ,メーテルランク,ロダンら世紀末思想を代表する芸術家に向けられていたことに注意したい。その他,フランス詩人のギョーム・アポリネールや画家カンディンスキー,近代美術収集家ガートルード・スタインらをはじめ,フランス人哲学者アンリ・ベルグソンなど,当時の新しい芸術や哲学の動きを起こした様々な人物たちの論考が『カメラ・ワーク』に登場しており,291はヨーロッパ芸術や文学,哲学の新しい動向について議論する国際的なネットワークの拠点にもなっていたことがわかる。しかし,スティーグリッツや291のメンバーが問題としていたのは,これらヨーロッ-630-
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