⑬ ロンバルディア地方のVI世紀よりXI世紀の建築及び建築装飾・浮き彫り彫刻の調査研研究者:東京大学美術史学研究室助手奈良沢由美95年度の冬から春にかけ,北イタリアのロンバルディア州の,初期中世の遺物・遺構を残す,10都市13教会を調査した(注1)。この調査は,初期中世の建造物および建築装飾である彫刻,壁画について,この時代の新様式の生成のクロノロジーを再考すること,また一方で,ロマネスク教会においてのロンゴバルド支配期,カロリング朝期の彫刻石材の再利用の状況のデーターを集めることを主たる目的としている。ここではXI世紀建造のホール型クリプトを中心にとりあげ,石材の再利用を比較するが,特に,VI世紀からXI世紀の教会装飾の様式変遷のクロノロジーを考えるうえで極めて重要である,パヴィアのサン・テウセビオ教会クリプトの柱頭群の制作年代をめぐる問題を検証したいと考える。サン・テウセビオ教会クリプトには,10本の独立柱の柱頭,および周壁の14本の付け柱のレンガ製の柱頭が存在する。クリプト自体はXI世紀の建造であるが,10個体残っている砂岩製の柱頭については(その内の1体はパヴィア市立博物館が保存),東側られることが通常である。これらの柱頭は,しばしば,ロンゴバルド支配期の彫刻の揺藍期を代表する作品とされ,特に,そのうちの2体の直方体の柱頭は,ロマニーニにより,移動期以前の貴金属細工の意匠と結び付けて解釈され,新しい美術様式が成立する時期のひとつのメルクマールともなっている(注2)。近年J.カバノが,柱頭の再利用説を否定し,XI世紀の建築家の制作ではないかと疑問を投げかけた(注3)。それに対し,ロマニーニは1991年の論文の中でカバノに反論している(注4)。周壁の付け柱の柱頭は,カバノの定義づけるところの,XI世紀の角切断型(エパヌラージュ)柱頭のタイプに属している(注5)。また東側の2本の独立柱の柱頭は,周壁の付け柱の柱頭同様,XI世紀に制作年代を推定されることが通常である。サン・テウセビオ教会クリプト柱頭の,四隅にパルメット葉を配する逆ピラミッド形の柱頭の様式は,VII世紀からXI世紀の幅広い間に,出現している。ただし,多くの場合,現在の建築物の中では再利用石材であったり,あるいは歴史的なコンテキスト究の2体をのぞき,その起源はVII世紀に存在していたと記録に残る最も古い聖堂に帰せ-633-
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