鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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注らく聖遺物を入れるためであったと思われる円形の凹みが残されていた。ロンバルディアに残るホール型クリプトの中で,儀式用備品の痕跡が残っている数少ない例のひとつである。もっとも現在では,新しく床が改修されていて,これらの痕跡を正確にたどることは出来なくなっている。このように,最近の不用意な修復によって古い貴重な痕跡が損なわれている例として,コモのサン・カルポフォーロ教会がある。ローマ時代や初期中世の大理石材が,内壁の各所に使われていることがわかっているが,現在ではその多くが塗込められてしまっている。そのために,それら古い部材の研究がいまだ十分になされていないのは残念なことである。初期中世の教会建築装飾は,元の時間的・空間的情報を完全に失っている例が多く,新しい教会内での再利用の積極的な意味を調べることはいまだ十分になされていない研究方法のひとつであろう。現在まだ調査は続行中であり,今後,北イタリアから南フランスにわたる地中海沿岸地域間の,広範囲の比較を可能にしたい。(1) 今回調査したロンバルディア州の教会は以下である。サン・テウセビオ教会(パヴィア),サン・ジョヴァンニ・ドムナールム教会(パヴィア),サン・テオドーロ教会(パヴィア),サン・ヴィチェンツォ教会(ガッリアノ),サンタ・マリア・マッジョーレ教会(ロメロ),サン・ピエトロ教会(ブレーメ),サン・カルボフオーロ教会(コモ),サン・タボンディーオ教会(コモ),サン・テウフエミア教会(イゾラ・コマチナ),サント・ステファノ教会(レンノ),モンツァ大聖堂,サン・サルヴァトーレ教会(ブレーシャ),サン・ヴィチェンツォ・イン・プラート教会(ミラノ)(2) PANAZZA (G.), 1953, pp.282-283; ROMANINI (A.M.), 1969, pp.232 ff.; ID.,1975, pp.759-798; SEGAGNI MALACART (A.), 1987, pp.377-378;さらに詳しくはLongobardi,1990, p. 305, nn. VII. 5, VII. 6参照のこと。(3) CABANO (J.), Les debuts de la sculpture romane dans le Sud-Ouest de la France, Paris, 1987, p. 263, n.18. (4) ROMANINI 1991, pp.15 ff. (5) CABANO (J.), "Aux origines de la sculpture romane: contribution a l'etude -638-

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