鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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料的に実証されているものである。しかしながら,祭壇画はおそらく19世紀に売却され,その過程で祭壇画の構成部分である複数のパネルがばらばらに解体された。19世紀末の時点でプレデッラ(祭壇画下部のパネル)とピナクル(頂部のパネル)を除く中央帯(メイン・レジスター)の9点のパネルは,ロンドンのハットン・ガーデン教会に所蔵されていた。しかしこれらのパネルもその後解体され,現在アメリカ合衆国の3つの美術館,ホ°ール・ゲッティ美術館,ミネアポリス美術研究所,グランド・ラピッズ美術館に分蔵されている。一方,近年国立西洋美術館が購入した「聖ステパノ伝」を表す3点のプレデッラ・パネルは,アイゼンバーグ氏により,上記の《型母戴冠》祭壇画の一部にほかならないとされた。講演では,これらの再構成の過程とその史料的根拠が紹介されるとともに,いまだ未解決の諸問題に関して興味の深い所見か述べられた。すなわち:・祭壇画の本来の設置場所に関する問題17世紀にサント・ステーファノ・イン・パーネ聖堂にあったことを実証する史料はあるものの,それが1408年に祭壇画に制作された時の本来の設置場所であるかどうかは不明である。アイゼンバーグ氏は,本来の設置場所がフィレンツェ市内のサント・ステーファノ聖堂である可能性も示唆した(この点に関し,同氏はフィレンツェ国立古書館での調査を継続中である)。・様式史的観点から,空間表現の特性についての問題祭壇画の中央の3点のパネルは,すでに19世紀の時点で各部を仕切る螺旋形の柱を備えている。しかしながら,これらは後世に作られたものであり,絵柄を比較することによって,本来マリオットは3点の場面の空間を,仕切を置かずに統一的・連続的に表現した可能性が高い。・現在知られていないピナクル部分の同定についてこれまで,本祭壇画のピナクル部分に該当するパネルは知られていない。しかしながら,アイゼンバーグ氏は,仮説的見解としながらも現在シエナのキージ・サラチーニ・コレクションに所蔵される2点のパネル《天使ガブリエル》と《聖告を受ける聖母》が本祭壇画のピナクルに由来する可能性を示唆した。・聖人の同定ピラスター(柱部)パネルのうち,これまで同定されず「司教聖人」とだけ呼ばれ-687-

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