鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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てきた作品(グランド・ラピッズ美術館)に関し,これが「聖アウグスティヌス」を表している可能性が高いことが指摘された。以上のように,アイゼンバーグ氏の講演内容は,イタリア後期ゴジック絵画研究の最も基本的な課題のひとつである「散逸した複合作品の再構成」の問題を実例をもってとりあげ,そこに付随する諸問題を紹介し,また課題解決の基本的な手続を示すものであった。こうした問題設定は,実際にこの時代の作例をほとんど実地調査することができないわが国においては,研究者にとって必ずしも扱い易い問題ではなく,これまで研究成果に乏しい分野である。その意味で,国内に所蔵される作品を重要な構成要素とする祭壇画を主題とした本講演は,現在進行中の調査の実例報告として意義のあるものだった。(d)国立西洋美術館スタッフとの討議祭壇画の再構成に関し,講演会の話題に含まれない諸問題を含めて西洋美術館スタッフとの討議が行われた。その内容は:・現在所蔵先不明の旧ミュンヘン個人蔵作品の来歴について西洋美術館所蔵作品と密接に関連する,現在行方不明の2点の作品《助祭に任じられる聖ステパノ》および《悪魔つきの女の治癒》につき,一般に信じられている来歴が誤っている可能性があることが,アイゼンバーグ氏より指摘された。同2作品の追跡調査につき,相互に情報交換を行うことが約束された。•中央パネルの枠飾りについて中央パネル《聖母戴冠》(ミネアポリス美術研究所)の枠飾り部分がどの程度オリジナルを保持しているかが討議された。下部をはじめ,部分的には,本来のものであるという見解で一致した。・枠飾り下部に書かれたイタリア語銘文の解釈について枠飾り下部には,祭壇画の本来の注文主を知る上で重要な情報として,銘文と年記が書かれている。この銘文の意味は語学的に2種に解釈することができ,いかなる読みとりが妥当であるかが討議された。-688-

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