/ ヽノ円形主室の両側壁の入口から二番目には左右脇侍菩薩像が本導像に向かって進むかのように半側面観の浮彫りで表されている。また,天衣や頸飾も風に靡くように後方に垂れている。櫻塔の精巧な彫りと衣文の柔らかい曲線は繊細で絵画的な雰囲気を醸し出している。これらの菩薩像の名称は本尊の名称との関連で重要であるが,それを特定できるような図像的特徴はない。左側の菩薩は右手に丸く平たい宝鉢を,右側の菩薩は四角の長い物を左手にもつが,この四角い持物は知恵を代表する文殊菩薩の梵英あるいは経冊と推定できよう。したがって,左側の菩薩は文殊の対となる普賢菩薩であろう。この宝鉢の図像的意味は不明であるか,実践的求道者としての普賢菩薩の象徴する円満な行いと,何らかの関係があると思われる。この解釈は本淳を釈迦とする考え方とも結びつけられ,かつ華厳を説く文殊・普賢菩薩の像として相応しいと言えよう。円形主室の後方の中央に十一面観音像が彫られているが,この像の存在は石窟庵の仏像群が華厳経だけから制作された体系的な図像とする見解には不利なものである。しかし,興福寺曼荼羅によると,興福寺西金堂の釈迦像の右脇侍は十一面観音像で,これは石窟庵の図像と類似する。十一面観音の頭上の第1段の中央には本面の化仏の十一面観音-694-
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