(2) 海外派遣① ヘリ・メット・ド・プレスと初期フランドル絵画における異時同図表現をめぐって報告者:国立西洋美術館主任研究官幸福ヘリ・メット・ド・ブレスについてのシンポジウムが開催された。筆者は発表者のひとりとしてこのシンポジウムに参加したので,同シンポジウムについて簡単に報告するとともに,若干の感想などを記しておきたい(同シンポジウムヘの参加にあたって謝いたします)。このシンポジウムは,同大学附属美術館に所蔵されるヘリ・メット・ド・ブレスの初期の代表作として名高い《十字架を運ぶキリスト》を中心テーマとした展覧会「絵画の解剖学ー一ヘリ・メット・ド・ブレスの《十字架を運ぶキリスト》」を記念して計画されたものである。所蔵作品の調査研究は美術館の責務であるとはいえ,高度な専門性を要する科学調査が重要な部分を占めざるをえない近年の研究状況は,所蔵美術館のスタッフだけでこうした調査を遂行することを一段と困難なものにしている。この展覧会は同美術館の修復家ノーマン・ミュラーによるヘリ・メット・ド・ブレスの同作品の修復計画が出発点となったものであるが,単に修復された作品を展示するのではなく,科学調査の成果や関連作品をも含めた発表の場として企画され,さらには,修復の過程においてなされたミューラーと館外の専門家同士の議論により具体的な形を与えようとシンポジウムも企画されたものである。従って,これは国立西洋美術館で数年前に開催された研究小企画展「ルーベンスと工房とその家族》」と性格的にきわめて似た学術性の高い研究展であり,シンポジウムであったといえよう。このように,当初は科学調査を中心としたシンポジウムが計画されたようであるが,計画の段階で美術史家をも交えたシンポジウムヘと変化した。この理由はそれほど明確でないが,ジェームズ・マロウをはじめとするプリンストン大学の美術史教授たちをパネリストとする討論会も同時に企画されたことを考えるならば,科学調査という非常に実証的な研究を基礎にすえつつも,狭い専門家だけの問題としてではなく,ひ1995年10月13日と14日の両日,プリンストン大学において16世紀フランドルの画家は,サミュエル•H・クレス財団と鹿島美術財団の助成を得ました。両財団に深く感輝《ソドムを去るロト-706-
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