鹿島美術研究 年報第13号別冊(1996)
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ふえふきじぞうくすみもりかげはなぶさいっちょうぬのさらしまいの頭部の図を良く見ると,探幽の鋭いまなさ‘‘しが十分に注がれていることを確認することができるでしょう。13.同笛吹地蔵(雲に乗り笛を吹きながら空を飛んでくる地蔵尊)図17世紀中期蓮の葉を頭にかぶり,横笛を吹きながら雲にのって来迎する地蔵尊が描かれています。仏画としては変わった図柄で,礼拝のためというより鑑賞を主な目的とした絵だったと思われます。ここでは,探幽による線と墨の,そして淡い色の美しさを味わって下さい。しなやかに流れる描線,濃淡のくっきりとついた水墨の調子,上品に押さえられた色合い,それらの描写技術は,正確で,あくまでも格調の高いものです。戦に勝っために高度な技術を貴ぶ気質を持っていた武士階級は,このような狩野派の確かな描写技術を好ましく思い,それゆえに彼らを御用絵師として支持したのです。14.久隅守景夕顔棚納涼(夫婦とその幼い息子が夕顔の棚の下で月を見ながら夕涼みを楽しんでる)図17世紀後期探幽以後,安定期に入った狩野派は,儒教的,封建的杜会の美徳として,古い家法を形式的に守り伝える保守的な傾向を深めていきました。時にはここに示すような新鮮な画風を開拓する個性的な弟子にも恵まれましたが,概していえば本来の時代性スライドは,探幽の弟子の久隅守景の名作です。一日の仕事を終え,入浴や夕食も済ませて,満月の昇るのを涼みながら待っていたこの夫婦と幼い男の子の3人は田園に住む健全で善良な農夫の家族に違いありません。人生の最高の幸せが,このような平凡な生活にこそあることを,この絵はさりげない調子で淡々と教えてくれています。17世紀の後期に描かれています。15.英一蝶布晒舞(川の水で布を洗う様子を演ずる舞)図18世紀初期16.同不動明王像と稚児図(不動明王の彫刻を一人の幼い少年が木刀で打とうとし,もう一人の年上の少年がそれを止めている滑稽な図)17世紀末期守景が農村の生活風俗を得意にしたのに対して,探幽の弟の狩野安信(やすのぶ)について学んだ英一蝶は,都市生活のはなやぎを共感をもって描きとめることに成功しました。長い布を操って踊る踊り子の姿は生き生きとリズミカルに表され,不動明王の彫像に木刀で打ってかかる少年の姿はきびきびと描かれており,ほのぼのとしたユーモアを伝えてくれます。(Modernity)を急速に失っていったのでした。ゆうがおだなのうりさ立-726-

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