「国際大学院生会議」への名称変更は,参加学生の呼びかけを従来のように日米両国の範囲に限ることなく,日本美術史専攻の博士課程在籍者を有する世界各国の大学を対象とすることを目指している。日本美術史に関する在外の研究は,近年ますます多角的となり,いずれも高い水準を有している。しかし,他の研究領域と比較して研究者の層は依然として薄い。大学に設置される日本美術史の講座も減少の傾向を見せ,代表的な美術館や博物館にも日本美術を専門とするキューレーターの数はまだまだ不足している。このような憂うべき現状を改善すべく,近い将来への布石とするのが本会議の目的である。過去の会議は,1987年の第1回開催以来,東京大学(1987年),心遠館(ロサンゼルス,1988年),上智大学(1990年),コロンビア大学(ニューヨーク,1992年)と,内外の大学が交互に当番機関となって実践を重ねてきた。第5回会議は,学習院大学を当番機関とし,日米のほかアジア・カナダ・ヨーロッパなど,計29大学から35名の参加学生を得て開催された。10日間にわたる会議は,各国の大学院生による研究成果の発表・討論を中心として,前後に関東および関西地区の美術館,博物館,寺社における見学•特別観覧を実施した。日程の詳細は別紙記載の通りである。見学・観覧については,各機関のご厚意により,第一級の作品に数多く接する機会を提供することが出来た。なお,諸手続き等,会議運営の実際については,準備段階から終了の時点まで,学生たちの自主性に委ねることを尊重し,学生委員を中心に全参加学生の協力によってすすめられた。起居を共にしながらの作品見学や研究発表会など,様々な機会を通して活発な意見交換が行われ,学術面における成果のみならず,参加学生相互の友情の深化という面においても実り多いものとなった。参加者は,会議終了後も互いに連絡を取り合い,内外の情報交換を行っている。今日,日本美術史研究を国際的な問題関心の場につなげる上でも,各国研究者との日常的な交流が欠かせない状況にある。殊に,専門的な研究を始動させて間もない若い世代が,早くから内外の研究者と意見交換の経験を持つことの意義は大きい。事実,過去4回にわたるJAWSの参加者たちは,国や地域を越えて親しい交誼を結び,日本美術史の新しい動向を主導しつつある。本会議によってもたらされた学術・友情面での交流は,近い将来に有形無形の多大な実りをもたらすことと期待される。-731-
元のページ ../index.html#742