⑪ 唐津陶に現れる16世紀朝鮮陶磁の影響の調査研究内容及び研究成果の報告報告者:大韓民国ソウル大学校人文大学考古美術史学科博士課程ー,はじめに唐津陶の魅力には,独特の野趣にあふれる士味と釉薬のおりなす{宅味,大胆な鉄絵表現,おおらかなフォルムなどがあげられよう。そうした唐津陶のおおらかな魅力や,あるいは実際の器形,釉調の類似から,その起源を朝鮮陶磁に求める説には,戦前から数多くの論考が存在する。最も代表的な説は,真清水蔵六,永竹威などが提唱した現北朝鮮咸鏡北道の会寧焼にルーツを求める説であろう。このルーツ説をもとに水町和三郎は,松浦党を代表とする倭寇によって半島北方の技術が唐津陶に伝えられたとし,草創年代を15世紀にまでさかのぼらせる根拠とした。しかし,研究史を丹念にさぐると,15• 16世紀にあたる会寧窯の発掘例はなく,今日会寧窯の製品と考えられているものには18世紀頃の製品が多いうえ,窯構造は昭和初年頃に創業されていた新しい窯構造が比較対象となっているのである。以上の研究史の背景や,地理的にみても会寧窯説には首肯しがたいものがある。昨今では,多数の消費地遺跡の発掘成果から,唐津陶の年代は16世紀の中頃,あるいは後半頃,つまり豊臣秀吉の侵略戦争(文禄・慶長の役,壬申倭乱)以前という見方が有力となってきている。そうしたなか,再度問題とされたのは,唐津陶の窯業技術,製品が外部からの影響をどの程度,またいつから受けているのかという起源の問題であった。最近,九州近世陶磁研究会や東洋陶磁学会は,こうした問題を窯業技術のうえから探っていこうとする,たいへん意義深い試みを展開している。その一方で,製品の比較研究はやや手薄の感があるうえ,比較基準となるべき16世紀の朝鮮陶磁全般に対しては,さらに詳細な研究が必要であろうと思われる。そこで報告者は,当財団の助成金をもとに平成8■ 9年度にかけて,大韓民国の陶磁窯・日本の唐津陶の窯,計34箇所について,製品を中心とした調査を行った。本稿では,その結果をもとに,16世紀の朝鮮陶磁の編年と分類,唐津陶との類似点・相違点の抽出をおこない,そのルーツと意義を明らかとする。片山まび-138-
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