鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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二,16世紀の朝鮮陶磁窯の編年と分類朝鮮陶磁研究史のうえで,16世紀の朝鮮陶磁については,まった<省みられなかったに等しかった。窯業技術については,平成8年度の東洋陶磁学会での羅善華の報告によって大きく前進したが,羅報告では地方窯の一部しか発表されず,日本と最も関連の深い慶尚道地方の窯の状況や,全般的な傾向に対する分析は明らかとされていない。そこで,報告者は,京畿道広州官窯に属する牛山里窯,奨川里5号窯,仙東里窯,同軍浦郡山本窯,忠清南道鶴峯里窯,同保寧郡龍水里窯,慶尚北道漆谷多富洞窯,同安東郡新陽里窯,同清道郡尊池里甕器窯,同山清郡放牧里窯,慶尚南道河東郡白蓮里窯,金海郡徳川里民墓,同倭城址,蔚山城,全羅南道光州市忠孝洞窯,谷城・麗川・順天郡の各窯の,計26基以上の窯址,消費地遺跡からの出土品について調査を行った。この数量は,現在わかっている16世紀の窯の過半数以上の件数であり,これらの動向でおおよその16世紀の陶磁の傾向が明らかになるものと思われる。いずれの窯の製品も全般的には極めて似通っているが,いくつかに分類可能であることが明らかとなった。ここでは,報告書がすでに刊行されているものを中心に,製品と窯構造についての報告者の分類案を提示することとしたい。(1) 製品の分類韓国に点在する16世紀の窯址からの出土品には,印花粉青などの細やかに作られた上質の粉青(三島)は無く,刷毛粉青・灰釉陶器・白磁が主で,ことに白磁が生産の主体を占めている。道別に白磁を中心とした型式分類を試みると,〔図1〕のようになる。器種を基準に区分すると,構成が豊かなものと,単純なものに分かれる。そのうち,京畿道広州官窯で,匝鉢を用いて高級品を焼成した窯(A),これと密接な関連を見せ,器種構成がゆたかで良質の製品を焼成した窯(B),京畿道広州官窯の脇窯で焼成された粗質の製品(C),これと同じく,器種構成が単純で粗質な胎土をもちいた窯た窯(E)と,大きくわけて5タイプの製品を焼成した窯が存在することがわかった。京畿道広朴l官窯でも,牛山里9号窯,奥川里9号窯のような良質品を焼成した窯がこのタイプに分類される。製品の特徴は,染付など明らかに高級品が存在しており,良質の胎土・釉薬・器形の端正さから,皇帝用の御器を中心に製造した窯である。注(D), Dと類似するが,粗質の灰釉を中心にもちいた窯(D'),甕器生産を中心とし・A 139-

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