注ヽヽ水尾本は図像的にも構成的にも先行する作例の影響を濃厚に受けながら,六道十王図を構成する三つの構成要素を明確に整理する。しかしそれら三つの構成要素が相互にどのように関連し合うかについては択ー的な決定をせず,一種オープンなままの構造を維持する。そこには以後の他界観が構築されるにあたってのさまざまな可能性が内包されており,その可能性の一つが熊野観心十界図のような構造を生み,また一つの可能性が長岳寺本に代表される近世六道十王図の構造を生んだのであろう。六道十王図をめぐるこうした歴史的展開は,『地蔵菩薩発心因縁十王経』を前提としながらも新たな他界観を形成しようとしていた『十王讃歎紗」をはじめとするテクストの増補の方向性と極めて密接な関係を有していたのである。これらの事例にあらわれた他界観がどのような宗教思想を背景とし他の分野にどのような影響を及ぼしていったのかについての全体像の解明が今後の研究課題となろう。(1) ①鷹巣純「『十王讃嘆修善紗』他と六道十王図にみる死後観の変遷」(東海印度学仏教学会第42回学術大会1996年7月於名古屋大学),②同「茨木市水尾地区本六道十王図について一構成を中心として一」(美術史学会東支部例会1996年7月於東京大学)。(2) ①鷹巣純「茨木市水尾弥勒堂所蔵六道十王図に関する基礎的考察J(『愛知教育大学研究報告人文・社会科学編』第46輯1997年3月),②同「『十玉讃歎紗』系諸本と六道十王図」(『東海仏教』第42輯1997年3月),③同「茨木市水尾地区本六道十王図について一図像とその構成を中心に一」(掲載誌未定)。図1水尾本六道十王図・右幅\ \ 図2水尾本六道十王図・左幅-8-
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