⑱ 戦後日本美術における屋外作品の成立と展開研究者:広島大学大学院社会科学研究科博士課程後期吉本麻美屋外作品の成立に至った原動力とは何か,その展開にはどのような意図や意義があったのかを探るのが研究の目的である。そこでまず戦後日本で行われた屋外展覧会とプロジェクトを調査し,資料の収集につとめた。さらに屋外作品の成立に深く関わる問題,つまり美術のための場としてなぜ美術館やギャラリーでは飽き足らなくなったのかを考えるために,本来展示目的ではない場所に提示された作品も対象に含めることにした。その結果,立体作品を中心に一部パフォーマンスやイヴェントを含む1990年までの作品について,知り得た情報をデータベースにまとめた。データベースは(a)展覧会・プロジェクト,(b)作品,(C)作家という三つのシートから構成され,メニュー画面(図l〕からそれぞれアクセスすることができる。(a)に収録されるのは展覧会の概要と開催期間,場所,出品作家および作品名,主催・問い合わせ先である。一件ずつのデータと表形式で最低限の情報を一覧する二つの表示形式を持つ〔図2• 3〕゜(b)には作品名,制作年,素材,サイズ,収蔵先,作品の説明等を書き込み,収集した限りにおいてー作品につき一点,必要な場合には二点の図版を収めた〔図4〕゜(C)には作家の生・没年,出身地,経歴,データベースに収録された作品・展覧会名,作家の連絡先が表示される〔図5〕(注1)。なお文献の欄はすべてのシートに設け,適宜配置して重複を避けた。これらのシートはボタン一つで別のシートが現れるように連携がとられている。またいずれのシートにおいても任意の項目から検索できるように配慮した。かくして収録されたのは,展覧会・プロジェクトが323件,作品点数が578点,作家が120名に及ぶ(注2)。限られた時間内の調査で決して十分な内容とは言えず,部分的に偏りがあることも否めない。けれども戦後から現代に至るまで,30年あまりの日本の屋外作品の系譜を一通り辿ることができ,何よりもまず概略を握むという第一の目的は果たし得たと考えている。データベースの今後の展開については報告の最後に述べることとし,今回作成した資料から導き得た考察を試論として述べてみたいと思う。これまで調べた限りでの戦後初めての屋外展は1950年代初頭に東京都の主催で行われた「野外創作彫刻展」である。50年代後半には後に述べる具体美術協会や九州派による野外展が開催され,60年代に入ると山口県宇部市で野外彫刻への一連の取り組み-217-
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