⑲ イタリアの美術館における近代美術コレクション研究者:西宮市大谷記念美術館学芸員中井康之1.今回の調査にあたってイタリアを美術館先進国として捉える事例として,16世紀フィレンツェで,コジモ1世が命じ,ヴァザーリが展示施設として光線や空間を配慮して設計したウフィツィ絵画館という施設を例として揚げることができる。しかしながら,近代以降の美術館像を考えるにあたって,美術の中心がフランス,アメリカヘと移行するに伴い美術館運営の中心もその両国を中心として展開していったことも,また同時によく知られている。日本に,西欧的な概念による美術,あるいは美術館という制度が導入されてきた経緯が近年の研究業績によって明らかにされてきているが(注1)'現在,日本で運営されている美術館の多くは,1951年に開館した神奈川県立近代美術館あたりが直接的なモデルとなったと思われる。ル・コルビュジェに学んだ坂倉準三が設計した国際建築様式による施設と,近現代美術を中心とした展示活動は,現在日本で運営されている過半数の美術館のハードとソフトの基本を規定しているだろう。一方,世界的なレベルでみれば美術館の運営は,総合化と専門化というおおきな二つの流れがある。例えば,フランスのグラン・ルーブル計画にみられるような大規模な機関と,その隣に位置するジュー・ド・ポム現代美術館のような展示対象を限定した施設などによって代表されるであろう。後者はともかく,ルーブル美術館の運営は,コレクション,予算,職員数,設備の規模等,いずれをとっても日本の現状と比較するには無理があると思われる。今同のイタリア近代美術調査は,19世紀イタリア絵画における反アカデミズム運動を,美術館コレクションから再考する目的で行った。その調査を行う過程で,イタリアの主要な近代美術館の非近代的な運営と非中央集権的な機構が,日本の美術館運営に示唆する点が多いと思われた。今回の報告は,そのようなイタリアの近代美術館の現状を大きく捉え直しながら,同国における近代美術の受容の形態を映し出すことによって,イタリア中部で展開した近代美術運動の現在の位置を明らかにする。と同時に,日本の美術館における近代美術の収集展示に対する問題点を示唆する一つの例証としたい。-227-
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