鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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つ。20世紀にかけてのトスカーナ地方の作家を中心に収集展示を続けている。特に,ディ本近代美術史の教科書に載っているような作家を集める,②印象派前後から始まる西欧の近代美術史の主流となる作家を目王とする,③地元の作家を前述の作品とは別の文脈によって取り上げる,といったような方針が代表される運営収集の基本となっているだろう。また,大原美術館のような一部の美術館を別にすれば,常設展示は添え物的な扱いであり,いわゆる企画展示に重点を置いていることも共通する点であろう。しかし,このような運営形態は,建物先行型の日本の美術館の特殊事情と言えるだろイタリアの美術館に限らず,欧米の美術館は,コレクションの寄贈あるいは計画的な作品収集が最初にあり,容れ物はコレクションに対応したものを選択するか,あるいは設計した上で運営している例が大半である。上述してきたイタリアの近代美術館もその例外ではない。そのような観点から今回の調査を総括すれば,まず始めに,イタリア唯一の国立近代美術館であるローマのコレクションは,既に述べてきたように,19世紀のリソルジメントに伴う主題や新しい表現の模索から始まり,20世紀は未来派から始まりフォンタナの空間主義を経てアルテ・ポーヴェラに続く近代から現代にかけてのイタリアの近代美術が内的論理に拠って展開してきたことを具体的に理解できるような構成となっている。日本の近代美術史観からすれば,印象主義から幾何学的抽象と表現主義的抽象が導き出される,といった世界美術史の主流から離れることになるのかもしれないが,そのような近代美術史の流れが唯一絶対的なものではない,ということを示しているのではないだろうか。さらに,イタリア各地の近代美術館は,ローマの近代美術館の縮約版を目指すことではなく,各地の特色を明確にしている。フィレンツェの近代美術館は,18世紀からエゴ・マルテッリの寄贈作品を核としたマッキア派のコレクションは,フィレンツェから起こった近代絵画運動を正当に評価しようとする方針が明らかであろう。ミラノの近代美術館は,北イタリアを舞台として革命的な絵画様式を作り上げたセガンティーニ,グルビシー,プレヴィアーティといった作家の色彩分割技法による象徴主義的な作品群に特徴があるだろう。また,まとめて寄贈を受けたマリオ・マリーニの作品は別館を設けて展示している〔図26〕。さらに20世紀以降の作品は,1984年設置した現代美術館に移管している〔図27〕。ボローニャ近代美術館も近年まで今世紀の地元のエ-235-

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